灰かぶりは王子様の手ではなく、魔法使いの弟子を選びました

海坂依里

第1章「灰かぶりと舞踏会」

第1話「灰色」

(お腹が空いた……)


 大都市にあるような公園では、四季を彩る華やかな花々が咲き誇る。

 色彩豊かな色に囲まれながら、人々の活気ある声で賑わっていく。

 そんな光り輝くような場所を想像していたけれど、私が住んでいる都市の公園は寂れた印象を与える。

 色彩なんてものが存在しない世界に咲く花は存在せず、今日も食べる物と眠る場所の確保に困っている人たちが公園へと集まっていた。


「希望者に行き渡るだけの食料はあります。落ち着いて、整列をしてください」


 慈善活動に関心のある貴族が、貧しい平民に向けて食料の配給を施している。


(私は、食料を受け取ってはいけない身分……)


 公園に集う人たちに見つからないように、フードを深くかぶって顔を隠そうと努める。


(でも……)


 体を休めていた長椅子から、配給の様子を見つめる。

 食欲をそそるスープの香りだけでなく、平民のためにわざわざ焼き立てのパンが用意されている。空腹を訴えるお腹は、配給の列から目を離せなくなる要因となる。


(顔を隠せば……)


 何度か、食糧配給の列に並ぶことを試みた。

 でも、自分に置かれている立場を理解した私は列に並ぶことを諦める。


(このまま、死ぬことができたら楽なのに……)


 一瞬、視界を閉じた。

 食べ物の香りは漂ってくるけれど、視界がなくなるだけで食べ物への恋しさを少しは減らすことができる。

 でも、この公園は私が独占していい場所ではない。

 死ぬ場所には相応しくないと思って瞼を上に上げると、私が腰かけていた長椅子の隅っこに一杯のスープが置かれていた。


「誰……」


 周囲を見渡しても、誰が自分のためにスープを持ってきてくれたか分からない。

 慈善活動を行う貴族に目を向けるけど、その中でも誰が自分のために食事を運んできてくれたのか判断することができない。


「っ」


 スープの中に広がる色鮮やかな世界へと手を伸ばした。

 具沢山の野菜たちは、自分は貧しいという現実を忘れさせてくれる。


(あれは……)


 公園の視察に来た貴族の名を確認する。

 顔さえ確認すれば、この慈善活動を行っている貴族がどこの名家の者だか判別することができる。それだけ私は、身分の高い人間だから。

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