メッセージ③

 野中に代わって、直ぐに別の容疑者が浮かんで来た。

 秋満政義あきみつまさよしと言い、晴彦が経営していた辻製作所に勤務していた人間で、会社をクビになっている。退社の際に、晴彦と随分もめたみたいで、そのことを覚えている人間が大勢いた。

 秋満は晴彦の父親の代から勤める辻製作所の古参の従業員だった。高校を卒業すると直ぐに、辻製作所で働き始めた為、晴彦と年は変わらなかったが、大学を卒業して会社を継いだ晴彦より勤務歴は長かった。その為か、晴彦に対して、時に横柄な物言いをするところがあったらしい。それを嫌われ、解雇されたと言う評判だった。

 晴彦が秋満を社長室に呼び、解雇を言い渡した時、「ふざけるな!誰のお陰で会社がここまで大きくなったと思っているんだ!」と言う怒号が、職場にまで丸聞こえだった。

「訴えてやる! 俺は絶対にお前を許さない」

 社長室を追い出された秋満は目を血走らせ、悪態を吐きながら会社を後にした。今から八年前の出来事だ。

「八年前となると、事件に直接関係が無いのかもしれません」と石川は弱気だったが、「分かりませんよ。ひょんなことから、事件を解決する鍵を発見するかもしれません。話を聞いてみましょう」と森が言った。

 二人は秋満のもとに向かった。

 秋満の住むアパートに向かうと、疲れた表情をした秋満の妻が二人を出迎えた。土曜日だったが、「秋満は仕事に出ていて、今はいない」と答えた。勤務先を尋ねると、市内にあるホームセンターを教えてくれた。そこの園芸コーナーで働いていると言う。

 ホームセンターに秋満を尋ねると、「丁度、今、農家から腐葉土が入荷したところなので、店頭に並べるまで少し待っていて欲しい」と言われた。秋満は一袋、二十キロはある腐葉土を店先に並べていた。

 たっぷり小半時待たされてから、秋満は、「ちょっくら休憩だ!」と店内に声をかけてから、二人を外に連れ出した。そして、「悪いね」と言って胸ポケットから煙草を取り出した。最近、喫煙者が減っているが、秋満も煙草を吸う様だ。

 森が事情聴取を始める。

「あなたと辻晴彦さんの関係について、お聞かせ頂けませんか?」

「辻晴彦? ああ、二代目のことか。久しぶりに名前を聞いたので、一瞬、誰だか分からなかった。二代目がどうかしたのか?」

「ご存じありませんか? 一昨日、自宅で殺害されました」

「二代目が殺された!? 何でまた、一体、誰に?」

 秋満が驚いた表情で尋ねた。

「それを現在、捜査中です。あなたと辻さんは犬猿の仲だったとお聞きしました」

 秋満は「ああ~」と納得した表情で頷くと、「随分、昔の話だよ。親父さんの代から勤めた功労者だった俺を、あっさりクビにしやがったからな。会社を辞める時は、悪態も吐いた。あの当時、息子が病気でね。会社を休みがちだった。それを二代目は、『勤務態度が悪い』と言って、クビにしやがった。人の皮を被った鬼だったね。あの人は――」と答えた。

「辻さんを恨んでいた?」

「恨んだね。あの時は・・・不当解雇で訴えてやるぞって思ったね。でもね、さっきも言った通り、子供が病気でね。裁判なんてやっている余裕も金も無かった。直ぐに仕事を探さなきゃあならなかった。結局、何もできないまま、今になってしまった」

 秋満は煙草の煙をくゆらせた。

 晴彦の事件は殺人事件とあって、地元ではかなり大きなニュースになっている。

「辻さんの事件をご存じなかったのですか?」

「悪いね。仕事が終わると、家に帰って寝るだけなんで。テレビなんて、ほとんど見ない」

「一昨日の夜、七時から九時の間、どこで何をしていましたか?」

「言っただろう。仕事が終わると家に帰って寝るだけだ。家にいたよ。母ちゃんに聞いてくれ」

 秋満も家族の証言しか無いようだ。辻の事件について、何も知らないようで、これが演技なら大した役者だと石川は思った。

 秋満は遠い目をしながら言った。「親父さんはね。人情味に溢れた良い人だった。小さな町工場だったけど、和気あいあいとして楽しい職場だったよ。二代目になって、会社は急に大きくなったけどね。二代目は人間らしい感情が欠けていた。会社をクビになったのは、俺だけじゃない。親父さんの時代の仲間たちは、二代目の代に皆、会社を辞めるかクビになって居なくなっちまった」

 最後に「祇園精舎の鐘」のことを聞いてみたが、秋満は「どこかの寺の鐘のことかい?」と何も知らなかった。

 秋満は「悪いね」と言い、煙草を揉み消すと店内に戻って行った。

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