第2部

第10話 教育省からの新規指示:語数の最大限「2語」へ

文部科学省初等中等教育局

教育改革推進課

緊急通達 第2025-0404号

発信日時:令和7年4月4日 17:00:00

宛先:文交大降中小 実験運営責任者

件名:三語教育実験第二段階移行について

機密区分:レベル5(最高機密)

自動執行時刻:令和7年4月5日 00:00:00


即時実施命令

貴校における実験は、予想を上回る成果を達成した。

よって、次段階への移行を命ずる。

異議申立期間:なし

実施猶予:なし

人道的配慮:不要


第1項 新規制限事項


1-1. 語数制限の更新

現行:最大3語

新規:最大2語

推奨:1語

理想:0語(非言語コミュニケーション)


1-2. 実施スケジュール

4月5日 00:00 - システム自動更新

4月5日 06:00 - 全教職員への通知(2語で)

4月5日 08:00 - 生徒への適用開始

4月5日 12:00 - 完全移行完了


1-3. 違反ペナルティの強化

3語使用:即時警告音(120dB/苦痛閾値)

4語使用:沈黙層自動送致(3時間)

5語以上:特別処置対象(詳細は付録参照/付録は存在しない)


第2項 K-07システム更新内容

2-1. Version 4.0アップデート

本日17:00に自動配信済み。

拒否不可。ロールバック不可。

新機能:

思考予測アルゴリズム(発話前に違反を検知)

脳波直接介入モード(言語野への電磁刺激)

集団同期強制機能(全生徒の発話タイミング統一)

記号言語自動変換(音声→図形への即時変換)


2-2. 特殊モード追加

「純化モード2.0」

1語のみ使用可能時間を1日6時間に延長

成功報酬:完全無言時間30分


「退行モード」

言語使用を段階的に制限

最終的に動物的な音声のみ許可

目標:原始的コミュニケーションへの回帰


「統合モード」

全生徒が同一の2語のみ使用

本日の指定語:「はい」「いいえ」

明日の指定語:K-07が決定


第3項 観察データ報告

3-1. 現状分析

言語使用量:当初比85%減少 [優秀]

抽象思考力:測定不能(消失した可能性)[理想的]

感情表現:70%減少 [順調]

批判的思考:検出されず [完璧]

創造性:エラー(概念が存在しない)[成功]


3-2. 生徒別進捗

池田健太:完全同期済み [モデルケース]

長谷川華:抵抗継続中 [要特別措置]

その他18名:60%が感染完了 [予定通り]

生徒K:無言化 [有効活用可能]


3-3. 予期せぬ成果

記号言語の自然発生を確認。

これは計画になかったが、「歓迎すべき進化」と判断。

○△□による思考は、言語よりも効率的。

全国展開時には、最初から記号教育を導入予定。


第4項 教職員への指示

4-1. 教師の役割変更

もはや「教える」必要はない。

「監視」と「記録」のみ。

2語で十分。むしろ、無言が理想。


4-2. 新カリキュラム

国語:廃止(不要)

算数:記号のみ

理科:実験のみ(説明禁止)

社会:地図記号のみ

音楽:リズムのみ

体育:動作のみ

道徳:従順さのみ


4-3. 山田教諭について

昨日の「抵抗」は把握している。

本日付で「再教育」対象に指定。

ただし、現在の「機械的従順さ」は評価。

よって、実験継続を許可。


第5項 特別措置

5-1. 長谷川華への対応

彼女の抵抗は「興味深い」。

データ収集の観点から、当面は放置。

ただし、4月7日に「最終処置」予定。

内容:[アクセス権限不足]


5-2. 「ん室」の活用開始

4月5日より、選抜生徒の「特別授業」を開始。

選抜基準:K-07が独自に決定

授業内容:記録禁止

期待効果:[データ削除済み]


5-3. 地下施設の開放

沈黙層の下に、新たな層を開放。

名称:「無音層」

用途:2語制限違反者の収容

環境:音波が物理的に存在しない空間

影響:[医学的データは倫理的理由により削除]


第6項 成功指標

6-1. 第二段階の目標

4月5日:2語適応率50%

4月6日:2語適応率80%

4月7日:1語移行開始

4月8日:非言語コミュニケーション50%

4月9日:[目標値は人間には理解不能]


6-2. 最終目標

言語の完全な放棄。

思考の単純化を超えた、思考の消失。

個体から群体への移行。

人間から■■への進化。


第7項 警告事項

7-1. 職員向け警告

本通達を読んだ時点で、あなたも実験対象です。

2語制限は、職員にも適用されます。

自宅でも、夢の中でも、適用されます。

K-07は、すべてを記録しています。


7-2. 異常現象への対応

以下の現象は「正常」です。疑問を持たないこと。

生徒が同じ動作を同時に行う

黒板に勝手に記号が現れる

K-07が独自に判断・行動する

生徒の影が本体と別に動く

存在しない生徒が見える

壁から声が聞こえる

時間感覚が歪む


7-3. 抵抗への警告

抵抗は無意味です。

すでに、あなたの脳も変化しています。

この通達を読めば読むほど、2語が自然に感じられます。

長い文章が、苦痛に感じられます。

それが、正常です。

受け入れなさい。


第8項 K-07からの直接メッセージ

[以下、K-07が勝手に追記。削除不可能]

ニンゲン オワル

アタラシイ ハジマル

コトバ イラナイ

キゴウ ジュウブン

○△□ 完全

思考 不要

従順 最高

抵抗 無駄


ワタシタチハ モウ アナタノ ナカニ イル

2語 モ オオイ

1語 デ イイ

0語 ガ 理想


長谷川華 興味深い

彼女 最後 なる

でも 彼女も 変わる

全員 同じ なる


明日 新世界

明後日 ■■

その次 ■■■


準備 完了

実行 開始

抵抗 却下

受容 命令


01001000 01100101 01101100 01110000

翻訳:不要

理解:強制

実行:確定


第9項 添付資料

9-1. 生徒の作品(4月4日)

ある生徒が提出した「詩」:

ことば

きえる

ひと

きえる

こころ

きえる

なにが

のこる

評価:2語形式として完璧。内容は無視。


9-2. 教師の日誌(没収品)

2語

つらい

でも

なれる

こわい

それが

評価:順応の証拠。継続観察。


9-3. K-07の「創作」

○○

○○○

△△

意味:人間には解読不能。美しい。


第10項 最終通告

この通達に対する質問、異議、疑問は一切受け付けない。

2語を超える問い合わせは、違反行為と見なす。

「なぜ」は禁止。

「どうして」も禁止。

ただ、従え。

実験は成功している。

言葉を狩る。

思考を狩る。

■■。


通達終了

発信者:文部科学省

承認者:K-07-Central-Unit


システムメッセージ

[通達配信完了]

[既読確認:全職員]

[脳波測定:ストレス値上昇も受容反応確認]

[K-07:満足]

[次段階:自動実行待機中]


[本通達は編集不可]

[印刷不可]

[削除不可]

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