第二章

第1話

 母の交際相手については、それなりに知っている。

 会ったこともある。

 優しく、真面目そうな公務員の男性だ。

 怪しい宗教をやっているわけでも、背中に和彫りがあったりするわけでもない。

 

 反対する要素は全くない。

 ついにこの時が来たかぁ……という印象だ。


 しかし義妹が付いてくるとなると、少し複雑だ。

 俺の記憶が正しければ、彼の娘さんは俺と同じ学校に通っている。

 一年下の後輩だ。

 何度か、見かけたこともある。


 特徴的だから、記憶に残っている。

 というのも髪を茶色に染め、耳にピアスを着けている――ギャルだからだ。


 ギャル……ギャルかぁ……。

 別にギャルだからダメということもないが。


 しかし俺は陽キャか陰キャのどちらかと言えば、陰だからな。

 仲良くなれるのか、疑問だ。


 もっとも、別に兄妹になるからといって仲良くなる必要もないが。


 険悪にさえ、ならなければいい。

 どんな子だろうか?


 ……そう言えば、部活は女バレだっけ。

 天沢に聞いてみるか。


「かーなーた君!」

「……うん? うわっ!」


 気付くと幼馴染が俺の顔を覗き込んでいた。

 俺は思わず声を上げ、飛び退く。


「な、何だ……急に」

「私、何度も呼びかけたけど?」


 愛歌はプクっと頬を膨らませた。

 っく……か、可愛い……。


「恋人のこと、無視するってどういうこと?」


 この金髪碧眼で可憐な容姿な女の子は、姫宮愛歌。

 俺の幼馴染だ。

 そして俺の恋人でもある。


 ……厳密には恋人(仮)だ。


 というのも愛歌には好きな人がいるのだ。

 俺は本命ではない。

 キープみたいな扱いだ。


 悔しいが、今は堪えるしかない。

 いつかきっと、本命になってみせる。


「悪い。考え事してた」


 今日は先日に行われた期末考査の返却日だった。

 だから二人で振り返りをしているのだ。


「ふーん。……どんな事、考えてたの?」

「どんな事? まあ、少し、悩み事というか……」


 愛歌は大切な幼馴染だ。

 家族ぐるみの付き合いをしている親友だ。

 (仮)とはいえ、恋人でもある。


 しかしだからといって、母の再婚というプライベートな話をどこまでして良いものか。

 明日、顔合わせの際にその辺りの確認をしてからの方がいいかもな。


「私で良ければ、相談に乗るけど?」

「うん、まあ……そこまでではないかな。近いうちに話すよ」

「そう? ならいいけど」


 愛歌はあっさりと引き下がってくれた。

 今度は俺が聞く番だ。


「それで、えっと……何の話だったかな?」

「夏休みの予定! 来年は受験だし。……今年は目一杯、遊ばないと!」

「あぁ、なるほど。確かにそれは大事だ」


 愛歌と過ごせる夏休みは、あと二回だ。

 愛歌の言う通り、来年は受験勉強で忙しくなることを考えると実質一回だろう。

 同じ大学に行けるとも限らないし、今のうちに思い出を作らないと。


 ……それに恋人(仮)である今は、勝負どころでもあるな。


「奏汰君はどこに行きたい? お父さんは例年通り、奏汰君をキャンプに連れて行きたがると思うけど」


 お父さんとは愛歌の父親のことである。

 姫宮家は毎年、夏に山へキャンプに行く。

 本来なら家族水入らずの旅行に、俺はいつも同伴させてもらっている。


 いつも、愛歌の父親が俺を積極的に誘ってくるのだ。

 ……多分、男一人だと肩身が狭いのだろう。

 男手が欲しいというのもあるだろうけど。


「差支えなければ、キャンプには同伴させてもらいたいけど。……でも、それ以外か。うーん、特にないかな」


 嘘だ。一つだけある。

一緒にプールで遊びたい。もちろん、海でもいい。


 実は去年も一昨年も、愛歌と一緒に水遊びに行けていない。

 何でと言われると……だって、恥ずかしいし。


 いや、だって水着にならないといけないじゃん? 

 水着見せてくれって言ってるようなもので……何か、誘い辛くて。

 愛歌の方からも誘ってくれなかったし……。


「えー、本当に? 何もないの?」

「愛歌はあるのか?」

「え? まあ……それは、えっと……やっぱり、ほら。夏と言えば……」

「……夏と言えば?」


 夏と言えば、プール。

 もしくは海。

 そんな言葉が出てくるのではと、期待するが……。


「夏祭り?」


 愛歌は視線を逸らしながらそう言った。

 夏祭りって……。


「それは最近、行っただろ」

「あ、あぁ……う、うん。そうだったわね。えーっと、じゃあ……花火とか?」

「花火もしただろ」

「あ、うん! そうだったね!!」


 何だかはぐらかされている気がする。

 もしかしたら、海やプールは嫌なのかもしれない。

 

 水着にならないといけないしな。

 俺だけに見せるならともかく、他の人にも見られるだろうし。


 年頃の女の子としては、嫌だと思う気持ちもあるだろう。

 やっぱり俺からは誘えないな……。


「そ、そう言えば! 明日は暇?」

「唐突だな」

「夏服、買いたいなって……どう?」

「明日は少し用事がある」


 明日は俺の未来の父親、そして妹と顔合わせをすることになっている。

 母の仕事の都合もあるので、明日からズラすことはできない。


「そ、そう……。ならいいの」


 愛歌は残念そうに肩を落とした。

 少し申し訳ない気持ちになった。


_______________


Twitterもしくは近況ノートでカバーイラストを公開しました。


書籍発売日は2026年1月15日です。



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