第29話
奏汰君から告白を受けた翌朝。
「お、おはよう……奏汰君」
「おはよう、愛歌」
私たちはいつものように挨拶する。
でも、少し恥ずかしい。
昨日、あんなに熱いキスを交わしちゃったし。
そ、それに告白されちゃった……。
好きって、付き合ってって。
仮だけど……。
「じゃ、じゃあ……いつもの、するか」
「う、うん」
珍しく、奏汰君は自分からそう言い出した。
私の体を力強く抱き寄せる。
腰に手を当て、私の体を支え、頭の後ろに置いた手で私を押さえつける。
「愛歌、好きだ」
「んぁ……」
そんな言葉と共に唇を奪われた。
いつもと違う、昨日の夜と同じ、深くて長い、濃厚なキス。
たっぷりと時間を掛けて、愛される。
体の力が抜けそうになる。
こ、こんなの反則……。
「ううっ……」
腰が砕けでしまい、倒れそうになる。
奏汰君はそれをそっと支える。
「あ、朝から……随分、ねちっこいじゃない」
せめてもの抵抗で、私は奏汰君を睨みつける。
すると奏汰君は拗ねた様子で顔を背けた。
「べ、別にいいだろ。……恋人同士なんだから」
「ま、まだ仮でしょ?」
「……じゃあ、もうやらない方がいいか?」
奏汰君は悲しそうな顔をした。
そ、そんなのずるいじゃん……。
わ、私だってシたいのに、我慢してるのに……。
「だ、ダメじゃないけど……朝からはダメ」
あ、朝からこんな愛されたら、おかしくなっちゃう……。
一日、耐えられない。
「じゃあ、夕方は?」
「そ、それは……気分にもよるかな?」
「気分?」
「む、ムードってものがあるでしょ!?」
「……それもそうだな」
幸いにも奏汰君は納得してくれたらしい。
渋々という調子で私を解放してくれた。
「じゃあ、行こうか」
「うん……」
私たちは手を繋いで登校した。
私と奏汰君はお付き合いすることになった。
これで恋人同士。
ただし、(仮)がつく。
なぜなら、奏汰君が一番好きなのは天沢さんだから。
天沢さんが手に入らないから、奏汰君は“二番目”に好きな私にその劣情を向けている。
私は天沢さんの代わりだ。
悔しい。
屈辱的だ。
でも……。
「ふふん」
(仮)でもお付き合いしているのは私だ。
あんなに濃厚なキスも朝からしちゃったし……。
奏汰君が私のことを一番好きになるのだって、時間の問題のはず!
やはり最後に勝つのは幼馴染!!
「あ、おはよう。姫宮さん」
「あ、お、おはよう……」
そう思っていたら、朝から天沢さんに挨拶をされてしまった。
き、気まずい……。
寝取っちゃたようなものだし。
二人は両想いなのに、私が横から入ったせいで付き合えていない。
きっと本当は奏汰君も天沢さんも、お互い付き合いたいはず……。
で、でも、最初に妥協して別の男の子と付き合ったのは天沢さんだし?
そもそも私の方が先に奏汰君のことが好きだったし?
奏汰君が選んだのも私だし?
別に不倫でも、寝取りでもないよね?
むしろ取り返しただけだから!
私は悪くない!
「昨日は挨拶、できなかったけど」
「あ、あぁ……まあ、お互いデート中だったしね」
デート中に鉢合わせすると気まずいよねぇ
わかるー。
そんな中身のない共感話をしてから、私は本題に切り出す。
「そういえば昨日の男の子……新しい彼氏? 同じ学年じゃないよね?」
「うん、部活の後輩だけど……彼氏じゃないよ」
「でもデートしてたじゃない。あ、これから付き合うとか?」
「ううん、もう付き合わないかな。……ちょっと聞いてよ!」
そこから天沢さんは後輩に対する愚痴を話し始めた。
長いのでまとめると、デリカシーがない男だから最低という話だった。
「なんか、私が歩くの遅いとかいってイライラし始めるし。勝手に先に言っちゃうし。いやいや、私、浴衣なんですけど? 下駄履いてるんだけど。あなたのためにおしゃれしてきたんだけど? そこはさ、女の子に歩幅合わせるのが最低限のマナーでしょ?」
「あぁー、それは後輩君が悪いね。最低だと思う」
「だよねぇー。誘われたし、カッコよかったからデートに付き合ったけど……もう二度目はないかなぁ」
どうやら付き合っているわけではなく、お試しでデートしただけらしかった。
つまり奏汰君の失恋は勘違いか……。
何だか、悲しいすれ違いだ。
本当は両想いなのに。
でも、妥協して好きじゃない男とデートする天沢さんが悪いのは変わらないから!
教えてあげない!!
「やっぱり年下はダメめ。年上か、最低でも同級生じゃないと」
「年下でも大人びている人はいると思うけどね」
「まあねぇ。その点、鷹羽君は素敵だよね。姫宮さんの手をちゃんと握ってたし。人混みの中で姫宮さんのこと、庇ってたし。いつも車道側歩いてるし。鷹羽君ほどじゃないにしても、その三分の一くらいは気を遣って欲しいよね」
「うん、まあ奏汰君も鈍いところはあるけどね」
ふふん、でも奏汰君は私の恋人(仮)だから!
今更後悔しても遅いよ。
「やっぱり男の子は顔じゃなくて、性格で選ばないとね。私も鷹羽君みたいな幼馴染、欲しいなぁ」
「そうだねー……うん?」
もしも、天沢さんが今からでも奏汰君にアプローチしたら?
奏汰君はまだ天沢さんのことが好きだろうから……。
――ごめん、愛歌。恋人、解消しよう。(仮)だったし、いいよな?
「だ、ダメ!」
「え?」
「奏汰君は私の恋人だから」
(仮)だけど……。
言わなきゃバレないし!
もう奏汰君の隣には私がいること、席は空いていないことをしっかりと伝える。
「え? 知ってるけど……それが?」
そ、それが……!?
何、その反応。
恋人がいようと、いなかろうと、関係ないってこと!?
寝取ってやろうってこと!?
そ、そんなの許せない!
「奏汰君は渡さないから!」
絶対、負けない!
私はあらためて天沢さんに宣戦布告する。
すると天沢さんはポカンと口を開け……。
「あははは!」
お腹を抱えて笑い出した。
な、何よ……。
「そ、そうだね。うん……あはっ!」
ば、馬鹿にして!
「絶対に負けないから!」
「あはっ! ……が、頑張ってね!」
天沢さんは笑いながら私にそう言った。
ぐぬぬぬ……。
く、悔しい!!
それは夏祭りでのデートを終えて数日経ち、もうすぐ夏休みが始まるという頃のことだった。
母に呼び止められた。
いつもは仕事で忙しい母が、俺と面と向かって話をしたいなどと言い出すのは珍しい。
「ねぇ、奏汰。大事な話があるんだけど、いい?」
「何を急に、あらたまって」
母はどういうわけか、やけにそわそわとしていた。
少し不安そうにも見える。
そういう雰囲気で「大事な話」などと言われると、少し不安になる。
会社クビになったとか、そういう類の話だろうか?
あまりよい話ではなさそうだが……。
一抹の不安を覚えつつ。俺は席に着いた。
「それで話って?」
「う、うーん。そうね……どこから話そうか」
母は話のとっかかりを探しているようだった。
どうやら話しにくい話らしい。
俺は静かに母が話し始めるのを待つ。
「もしもだけど」
「うん」
「妹ができるって言われたら、どうする?」
はい?
「え? 妊娠してるの?」
いや、交際している人がいるのは知ってるけど。
デキちゃったのか? それともこれから作るの?
その年で妊娠はまあまあ危なくないか?
いや、産む産まないはあなたの自由意志だけど……息子としてはまあまあ複雑だし、心配だぞ。
「あ、ごめんなさい。言い方を間違えたわ。確かにそうよね。今の言い方だと、そうなっちゃうよね」
どうやら妊娠しているわけでも、これからするわけでもないらしい。
なら、どうやって妹が増えるんだ?
一瞬疑問に思った俺だが、すぐその意図に気づく。
「あぁ、結婚するんだ。いいんじゃないか?」
つまり義理の妹か。
________________
愛歌ちゃんの戦いはこれからだ!END
第一部完。
2部は1週間以内にスタートしたいと思っています。
愛歌ちゃんに新たなライバル(?)が現れます。
乞うご期待!!
と、合わせて本作の書籍化が決まりました。
GA文庫様での書籍化となります。
イラストレーターは「kuro太」様です。
発売日は2026年1月15日です。
情報やキャラデザなどは順次、発信していきます。
イラスト等は近況ノートでも張りますが、X(旧twitter)の方が先に見れるかなと思います。
↓↓↓
https://x.com/sakuragi_sakur
これからも応援をよろしくお願いいたします。
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