第26話
俺たちはお祭り会場――神社から少し離れた森の中に移動することにした。
お祭りの喧騒が聞こえ、明かりは見える。
しかし人気はない。
そんな場所まで移動する。
「この辺りなら、人気がないけど……」
本当にやるのか?
そう聞くよりも先に愛歌が浴衣の帯を解き始めた。
スルスルと帯が解け、浴衣がはだける。
愛歌の白い肌がチラチラと見え始めた。
下着の色は黒だった。
え、エロ過ぎないか……?
「ねぇ、奏汰君。ここ、持って」
「あ、うん……」
「そうじゃなくて……後ろから」
「こ、こうか?」
言われるままに俺は愛歌の背後に回り込んだ。
そして愛歌に指示されるまま、浴衣の形を整える。
愛歌の白いうなじから、ふんわりと甘い香水の香りがした。
「うん、ありがとう」
愛歌は手慣れた手つきで浴衣を着ていく。
俺の補佐、本当に必要だったか……?
「じゃあ、戻ろうか」
「待ってよ」
「な、何だよ」
愛歌に浴衣の裾を掴まれた。
愛歌はジっと俺の顔を見上げる。
「私の下着……見えた?」
「……す、少し」
嘘を言うわけにはいかない。
俺は目を逸らしながら応えた。
怒るだろうか? からかうだろうか?
さすがにこれで怒られるのは理不尽だし、後者の方が嬉しいけど……。
「どうだった?」
「ど、どうだった!?」
何を言い出すんだ、急に!
愛歌の顔色を確認するが、彼女は恥ずかしそうにしながらも真剣な様子だった。
「……大人っぽいと思ったよ」
「ふーん」
正直に答える。
すると愛歌は満足そうな表情を浮かべた。
「そ、それを俺に聞いて、どうするんだよ」
「え? そ、それは……」
愛歌は視線を泳がせた。
それから頬を背ける。
「こ、恋人に見せる時、ダサかったら困るでしょ? せっかくだから、男の子の意見を聞こうかなって」
「な、なるほど?」
そ、そうだよな。
俺に見せるための下着じゃないもんな。
っく……。
「ちなみに奏汰君は……黒と白ならどっちが好き?」
「えぇ!?」
な、悩ましい質問だな。
白の方が清楚で可愛いけど、黒の方が白い肌には映える気がする。
正直、どっちもエロい。
……って、そうじゃなくて!
「お、俺に聞いてどうするんだよ」
「だって……今は奏汰君が恋人じゃない?」
「そ、それは……そうだけど」
で、でも練習だろ?
俺の意見なんか聞いても、本番に行かせないだろ。
……本番。
クソ……。
「い、いいから早く答えてよ」
「……今日は黒、かな」
「今日は? ……日によって変わるの?」
「ま、まぁ……別に色にそこまで拘りないしな」
変な色やデザインでなければ何でもいい。
大事なのは下着ではなく、下着を着ている人だろう。
興味のない女の子の下着はただの服だ。
「愛歌なら……何を着ても似合うだろ。可愛いんだから」
俺がそう答えると、愛歌の顔が真っ赤に染まった。
そ、そんなに照れるなよ。
こっちまで恥ずかしくなるじゃん……。
「い、行きましょう! 奏汰君」
「お、おう!」
俺たちは腕を組みながら、お祭りに戻った。
それから二人で屋台を見たり、遊んだりしているうちに、花火の時間が近づいてきた。
そろそろ、花火が綺麗に見える場所に移動したいが……。
「ごめん、愛歌。ちょっとトイレに行ってからでもいいか?」
「うん、いいよ。私、ラムネ買ってくるね」
「悪いな」
俺はトイレに向かい、素早く用を足す。
待ち合わせ場所に戻るが、まだ愛歌の姿はない。
列に並んでいるのだろうと思い、待ち始めて十分……。
さすがにおかしい。
俺は慌てて愛歌を探し始める。
幸いにも愛歌はすぐに見つかった。
手にはラムネ瓶を二つ、手に持っている。
そして男が二人、愛歌に言い寄っている。
頭に血が上るのを感じた。
「愛歌!!」
俺が駆け寄ると、男たち二人は眉を潜めた。
しかし俺が睨むと、怯んだ様子で逃げるようにその場を去った。
「彼氏いるのかよ……」
そんな声が聞こえた。
「大丈夫か、愛歌」
「あぁ、うん。別に何とも……あ、ちょ、ちょっと……」
「怪我とかしてないか?」
俺は愛歌の体をペタペタと触り、確認する。
怪我をしていたり、浴衣が乱れている様子はない。
良かった……。
「や、やめてって……」
「あ、あぁ……悪い」
俺は慌てて愛歌から離れる。
愛歌は顔を赤くし、恥ずかしそうにしていた。
「変な注目、浴びちゃったじゃん……」
「ご、ごめん。場所、移そうか」
「……うん」
俺は愛歌からラムネ瓶を一つ、受け取ると、彼女と手を繋ぎ、その場から移動する。
「あれはその……ナンパだった?」
「うん。花火、綺麗に見える場所知ってるから……だって」
そういう愛歌の声音は落ち着いているように聞こえた。
考えてみれば、愛歌の容姿なら男に声を掛けられるくらい、よくあることだろう。
一人でも切り抜けられたかもしれない。
でも……。
「今日は俺から離れるな」
「えぇー、なに? 奏汰君、もしかして嫉妬しちゃった?」
「茶化すなよ」
嫉妬というよりは、独占欲だ。
俺の幼馴染である愛歌に手を出されそうになった。
傷つけられそうになった。
それが許せない。
……いや、それを嫉妬というのか。
「えっと……」
「今は俺が愛歌の恋人だろ」
俺の言葉に愛歌は大きく目を見開いた。
白い頬が仄かに赤らむ。
……恥ずかしいことを言ってしまった。
「とにかく……今日は俺の側にいろ」
「う、うん……」
同じ言葉を繰り返し、手を強く握る。
愛歌は困惑した様子で小さく頷いた。
変な雰囲気になってしまった。
もっと楽しい話をしないと……そう思っていると。
「えい!」
「おっと!」
愛歌に抱きしめられた。
愛歌は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「助けてくれてありがとう。奏汰君」
「う、うん……当然のことをしただけだ」
誰にも渡したくない。
そう思った。
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