第29話 文化祭本番、尊い舞台と大ハプニング
文化祭当日。
校舎全体が人と笑い声で溢れていた。模擬店からは甘い匂いが漂い、廊下にはポスターや看板がずらりと並ぶ。
俺たち三年の教室も、朝から準備に大忙しだった。
展示パネルを壁に貼り、衣装に着替え、照明や音響のチェック。
最後の仕上げをしていると、琴音が両手を広げて叫んだ。
「尊いですわぁ! 尊い文化祭の幕開けですわぁ!」
「おい! まだ始まってない!」
俺のツッコミにクラス中が笑う。
午前の部。
歴史劇「王と姫と民衆の物語」がついに始まった。
舞台に立った琴音は、お姫様のドレス姿で堂々とした笑顔を浮かべている。
「尊い王国に生まれしわたくしは――」
第一声から「尊い」を混ぜてきて、会場は早くも爆笑の渦。
「台本に書いてねぇだろそれ!」
袖から必死に小声で注意する俺をよそに、琴音は堂々と演じ続ける。
王役の男子が緊張でセリフを飛ばし、舞台が一瞬止まった。
観客席からざわめきが広がる。
その時、突然森山が立ち上がった。
「余は王である! 国を守るのだ!」
即興のセリフ。
その堂々たる声に、観客は一気に引き込まれた。
「森山さん、尊いですわぁ!」
琴音も自然に合わせ、舞台は無事に流れを取り戻す。
カーテン裏から見ていた俺は思わず笑った。
(あいつ、本当に器用なんだか不器用なんだか……)
午後は展示コーナー。
シルクロードの交易や古代の衣装展示など、クラスメイトが説明に奔走する。
俺も来場者にパネルの解説をしていたが、琴音が割り込んでくる。
「こちらが尊いラクダですわ! 長旅を支えた尊き相棒ですの!」
「ラクダは展示してない! 写真だろ!」
「写真も尊いですわ!」
来場者は大笑いしつつ、展示に見入っていた。
森山は淡々と説明を続けるが、その隣で琴音の暴走が拍車をかけ、結果的にブースは大盛況になっていた。
夕方。
全てのプログラムが終わり、撤収作業をしながらクラスメイトが口々に言った。
「今年の劇、めっちゃウケたな!」
「展示も大成功じゃん!」
その中心で琴音は両手を広げていた。
「尊い文化祭でしたわぁ! 三年の思い出にふさわしい尊さですの!」
森山は椅子に腰かけ、疲れた顔をしていた。
「……効率は悪かった」
そう言いながらも、わずかに笑っていた。
「でも、悪くなかったろ?」俺が声をかけると、森山は小さく頷いた。
帰り道。
夕暮れの校門を抜け、三人で歩く。
蝉の声は弱まり、秋の虫の音が代わりに響いていた。
「最後の文化祭……終わっちゃいましたわね」
琴音の声はどこか寂しそうだった。
「……これで受験に集中できる」森山が淡々と言う。
だが、その口元にはほんの少し、満足そうな笑みが浮かんでいた。
俺は二人の顔を見ながら思った。
(勉強だけじゃない。この時間もまた、尊い受験生の一部なんだ)
その尊い思いを胸に、俺たちは静かな秋の道を歩いていった。
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