第153話 彼女の背中、まだ遠くて

― 再びマイクの前で


「……ただいま。」


 短くそう呟いて、アリアはマイクを見つめた。

 トップライブから数日。

 画面の向こうでは、リスナーたちが待っていた。


【コメント】

リスナーA:おかえりアリアちゃん!

リスナーB:セレン様との共演すごかった!!

リスナーC:生きてた!?(過労心配勢)

リスナーD:あのハモり、マジ鳥肌だった……


「ふふ……ありがとう。ちょっとだけ、緊張してたんだ。」


 笑いながらも、声がわずかに揺れる。

 セレンとの共演以来、“自分の声”がやけに重く感じていた。


「セレンさんの声、すごかったよね。

 ……あの瞬間、同じステージに立ててたのが信じられなかった。」


【コメント】

リスナーA:いや、アリアちゃんも負けてなかったよ!

リスナーB:むしろ光ってた

リスナーC:セレン様が笑ったの、アリアちゃんの声でしょ?


 コメント欄の温かさに、胸が少し軽くなる。

 でもその奥に、消えない感情があった。

 “まだ、届いてない”という現実。


マネージャー室にて


 配信を終えたあと、紗南がそっと紅茶を置いた。


「……セレンさんの背中、遠かった?」


「うん。でも、見えた気がした。

 あの人が“どんな覚悟”で歌ってるのか。」


「焦りは悪いことじゃないよ、アリア。

 焦るってことは、ちゃんと見てる証拠だから。」


 その言葉に、アリアはハッとする。

 “焦り”を責めるように感じていたけど、それは違った。


「焦ってるのに、前を向ける人が伸びるの。

 君はそのタイプだと思う。」


「……紗南さんって、ほんとずるい。

 そんなこと言われたら、がんばるしかないじゃないですか。」


 二人の笑い声が、静かな事務所に響いた。


SNSトレンド


【#アリア再始動】

【#焦っても前を向く】

【#セレンの背中を追う少女】


ファンアートでは、アリアがステージの光を見上げる姿が描かれ、

コメント欄には「次も楽しみにしてる」「この箱、ほんといい空気」などの言葉が並ぶ。


夜の独白


「……まだ、遠いな。」


 練習ブースに一人残り、アリアは小さく呟いた。

 マイクに映る自分の影が、少しだけ揺れる。


(でも、遠いなら――歩けばいい。)


 小さく、息を吸って。

 “次の歌”のワンフレーズを、口にした。


【夜宵アリア(内部ステータスボード)】


能力項目 数値 変化

反応速度 MAX ―

表現力 Lv9 → Lv9(維持)

感情制御 Lv8 → Lv9(焦燥の中の集中)

歌唱安定度 Lv8 → Lv9(成長の兆し)

精神耐性 Lv7 → Lv8(プレッシャー克服)

発信影響力 Lv10 → Lv10(ファンの共感上昇)


――焦りは、止まる理由じゃない。

 それは、次に進む“エンジン”だ。


__________________________

【あとがき】

すみません、今日投稿分が消えてしまい

遅くなりました!

今日は後15:00 18:00に投稿予定です

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