第140話 ファンとの対話 ― 声の温度

 夜宵アリア、デビューから10日。

 その夜、配信ソフトの画面には――

 タイトル欄に、ただ一行。


【夜宵アリア】 #はじめての雑談


 歌でもなく、ゲームでもない。

 “話すだけの夜”を選んだのは、アリアにとって初めてのことだった。


開幕の沈黙


 配信が始まる。

 BGMはゆるやかなピアノ。

 コメント欄がすぐに光り始める。


【コメント欄】

リスナーA:雑談!?

リスナーB:歌じゃない配信!?

リスナーC:緊張してそうw

リスナーD:沈黙姫、沈黙しないでw


 アリアはマイクの前で深呼吸をひとつ。


「……こんばんは。

 夜宵アリアです。」


 少し間があく。

 けれど、その間が柔らかい。

 声の温度が、ほんの少しあたたかい。


話すことの怖さ


(話すって……難しいな)


 沈黙に慣れた彼女にとって、

 “言葉で繋がる”ことは、実は一番苦手なことだった。


「えっと……今日は、みんなと少し、話してみたくて。」


【コメント】

リスナーA:え、話してくれるの!?

リスナーB:声優みたいなトーン……

リスナーC:緊張してるの伝わるのかわいい


「……うん、ちょっと緊張してます。」


 ほんの小さな笑い声がマイクに乗る。

 コメント欄が一斉に“かわいい”で埋まる。


ファンとの距離


「最近、歌をたくさん聴いてもらって。

 正直……びっくりしました。

 でも、うれしかったです。」


【コメント】

リスナーA:こちらこそありがとう

リスナーB:Celestiaまだ毎日聴いてる!

リスナーC:あの夜、泣いた人たくさんいたと思う


「……そう言ってもらえると、

 本当に、やってよかったなって思います。」


 言葉がゆっくりと、けれど確実に流れていく。

 歌とは違う種類の“声”が、そこにあった。


笑いと失敗


「あと、実はまだゲーム実況の練習もしてて……。

 カメラが回ってると、手が震えます。」


【コメント】

リスナーA:かわいいw

リスナーB:なんか意外に緊張するタイプ?

リスナーC:でもゲーム上手そうな雰囲気あるよね


「……震えながら勝てたら、かっこいいでしょ?」


 一瞬の間、そして爆発するコメント。


【コメント】

リスナーA:その言い方ズルいww

リスナーB:絶対やり込んでるタイプだ

リスナーC:これ、ただ者じゃないぞ感ある


配信の終わりに


 BGMが少しだけ音量を下げる。

 アリアは画面を見つめたまま、ゆっくり息を吐いた。


「……今日は、ありがとう。

 歌っていない夜も、こうして話せて、

 なんか、“生きてる”感じがします。」


 ほんの一瞬、沈黙。

 そして、優しい笑みを浮かべた。


「また、話そうね。」


【ステータスボード:夜宵アリア】


反応速度:MAX(固定)

戦術理解Lv:6

キャラ操作精度:9

空間認識力:8

感覚統合:Lv2

表現力:Lv3

トーク力:Lv1 → Lv2

発信影響力:Lv2


“沈黙の姫は、言葉のぬくもりを覚えた。”

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