第114話 沈黙の歌現象 ― 業界分析会議

SNSの熱狂


 投稿からわずか24時間。

 『沈黙の歌』は再生数120万を突破。

 トレンドの上位には「#Noctia」「#夜宵アリア」「#沈黙の歌考察」が並んでいた。


【SNSコメント抜粋】

リスナーA:ビブラートのかけ方、完全にNoctia。

リスナーB:“沈黙”=“無言姫”って伏線じゃないの!?

リスナーC:まさかとは思うけど……この展開、ドラマすぎる。

リスナーD:正体バレても推す。魂が同じならそれでいい。


 動画のコメント数は1万件を超え、

 海外ファンの間でも「SILENCE REBORN(沈黙の復活)」というタグが流行し始めていた。


LIVESTAR本社 ― 分析会議室


 白いモニターに映し出されたグラフが、右肩上がりで跳ねている。

 PR部の若手が声を上げた。


「再生ペース、異常です。

 比較動画が各国語で翻訳されて、今や海外でも“あの歌い手の帰還”扱いになってます!」


 広報マネージャーが額を押さえた。

「まさかここまで早くバレるとはね……まだ正式デビュー前だというのに」


「どうします? 沈黙する方針でいいんですか?」

「沈黙の歌、なんてタイトルをつけたのが運命だったな……」


 室内がどっと笑いに包まれるが、その中心でただ一人、ユリウスだけは口角を上げていた。


ユリウスの見解


「答えなくていい。

 “推測のままにしておく”ことが、最も美しい」


 彼はモニターに映る波形を見つめながら続けた。


「アリアは“沈黙”と“声”の狭間にいる存在。

 ファンはその境界を探すこと自体を楽しんでいる。

 だから――わざわざ真実を告げる必要はない」


 静寂が落ち、誰も反論しなかった。

 この天才作曲家の言葉には、確かな説得力があった。


一方 ― ステラリウム控室


 同じ頃、ステラリウムのメンバーたちもその動画を見ていた。

 最年少のソラが息を呑む。


「これ……アリアちゃんの声?」


 リーダーのナギサが笑って肩をすくめる。

「ま、どっちでもいいでしょ。

 もし本人だったら、あの人、もう化け物の域だよ」


 全員が同意したように頷く。

 ――ただ、誰も“否定”はしなかった。


そして、本人は。


 夜。

 アリアはひとり、レコーディングルームの暗がりで画面を見つめていた。

 通知欄は止まらない。

 ファンがNoctiaの頃の動画を貼り、夜宵アリアと並べて語り合っている。


(……どっちも、私だよ)


 声に出すことはない。

 けれど、胸の奥では確かに答えを呟いていた。


(この“沈黙”を越えたら、もう戻れない。

 でも、それでいい――)


 アリアはヘッドホンをつけ、再びマイクの前に立つ。

 世界が騒がしくても、自分の世界は変わらない。


【ステータスボード:夜宵アリア】


反応速度:MAX(固定)

戦術理解Lv:6

キャラ操作精度:9(維持)

空間認識力:8(維持)

感覚統合:Lv2

共鳴感覚:Lv3 〈声に“想い”を宿す〉


ボーナスポイント:+1(保留)

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