第111話 デビュー準備ミーティング ― 夜宵アリア、声の世界へ
スタジオ会議室 ― 公式デビューに向けて
「――それでは、夜宵アリアさんのデビュー準備ミーティングを始めます」
清潔な会議室に、数名のスタッフが並んでいた。
プロデューサー、技術担当、モデラー、そしてサウンドディレクター。
前方のスクリーンには、彼女の新たな姿――水色と透明感を基調にした3Dモデルが映し出されている。
「うわ……これ、完成度すご」
「正直、うちの新人じゃトップクラスだと思います」
スタッフの声が自然と漏れる。
(あの戦場の沈黙が、今度は“声”に変わる――)
プロデューサーの胸中にも高揚感があった。
ボイス収録の方向性
「ではまず、声の方向性を確認しましょう」
マイク前に座ったアリア。
テスト用のセリフが表示される。
「――こんばんは、夜宵アリアです。
今日も一緒に、夜を遊びましょう。」
彼女の声がスピーカーから流れた瞬間、空気が変わった。
やわらかく、それでいて芯のある声。
透明な響きに、全員が言葉を失う。
「……これ、本当に初収録?」
「リップシンク完璧、息の吸い方まで自然だ」
「声に“情景”がある……歌でもゲームでも通用しますね」
技術担当が小声で呟く。
「この人……普通じゃないですね。
呼吸、イントネーション、声圧のコントロール……全部訓練済みのプロみたいだ」
サウンドディレクターが頷く。
「何年も舞台でやってきたような安定感。
なのに新人、ですよね?」
「ええ、経歴は“完全新人”。
けど、もう完成されてる。恐ろしい逸材です」
ブランド方針 ― 二つの顔
プロデューサー:「アリアさん、今後は“ゲーム”と“音楽”の両軸で展開します。
FPS大会での特別枠の件――あれは正式に非公開。
でも“戦えるV”としての印象は大事にしたい」
スクリーンには新ロゴが表示された。
夜宵アリア(Yayoi Aria) ― 唄い、戦う。沈黙の歌姫。
「……沈黙の、歌姫」
アリアは小さく呟き、その言葉に微笑む。
(いい。
“無言姫”だった自分が、今度は“声”で伝える番だ)
終了後 ― 控室にて
控室に戻ると、録音用ヘッドホンを外した。
鏡に映る自分の姿――夜宵アリア。
水色の瞳が、静かに光っている。
(戦うことも、歌うことも、全部“私”。
どちらかなんて、もう選ばなくていい)
スマホの通知が鳴る。
SNSでは既に、ティザー公開の告知が拡散されていた。
【#夜宵アリアデビュー決定】
【#LIVESTAR新星】
そして――
世界は、彼女の“沈黙の声”を聴くことになる。
________________________________
【あとがき】
「沈黙の歌(=夜宵アリアの象徴曲)」は、彼女の物語全体を貫く“無言姫から歌姫への変遷”を象徴する核心テーマです。
ここでいう“沈黙”は「無音」ではなく、「言葉にできなかった感情を声に変える」という意味を持ちます。
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