第84話「カメラ・モーションチェック」
動き出す視線
「次はカメラとモーションの調整に入ります」
スタッフが合図をすると、モニターに“夜宵アリア”が全身で映し出された。
水色の髪が光を反射し、ドレスの裾がふわりと揺れる。
(私の動きに合わせて……息をしてるみたい)
私は立ち上がり、軽く手を振る。
画面の中のアリアも同じように、柔らかく手を振った。
表情テスト
「笑顔からお願いします」
スタッフの声に従い、私は口角を上げる。
モニターのアリアが、観客を包み込むような笑みを浮かべた。
「いいですね。自然すぎて、ちょっと驚きました」
「では、次は驚いた表情」
私は目を大きく開き、肩をすくめる。
アリアの瞳がぱちりと揺れ、ほんのり頬が色づいた。
「おお……これは配信で絶対バズりますね」
「ちょっとしたリアクションでも、映えるキャラになってる」
細部のこだわり
「ただ、瞬きのスピードが人間的すぎます。少しアニメ的に遅くしましょう」
「それと、指先の動きはもう少し誇張してもいいですね。舞台映えしますから」
スタッフ同士がモーションを調整していく。
「夜宵さん、ちょっと拳を握ってもらえますか?」
私は軽く手を握る。
するとモニターでは、アリアの指先に細やかな影が落ち、リアルさと幻想感が同居していた。
「……綺麗」
思わず口にしてしまった。
「ご本人がそう言うなら間違いないですね」
スタッフの一人が笑う。
自分を見る
モニターに映るのは、誰よりも洗練された“私”。
無言姫の沈黙も、Noctiaの歌声も、この姿の一部に溶け込んでいる。
(半年後、この姿で――世界に立つ)
心の奥が、静かに熱を帯びた。
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