第82話「モデル調整の打ち合わせ」

モデル始動


「では、モーションチェックに入ります」

 スタジオに設置されたモニターに、夜宵(やよい)アリアの姿が映し出された。


 水色の髪が、私の首の動きに合わせて揺れる。

 瞬き、口の開閉、肩の動き――。

 細かなセンサーが拾うたびに、画面の中の“私”が呼吸をするように動いた。


(……生きてるみたい)


 自分で操っているはずなのに、不思議と見惚れてしまう。


スタッフの確認


「髪の揺れは自然ですね。ただ、ロング部分の動きが少し重いかもしれません」

「リボンのひらひら感はもっと強調した方がライブ映えします」

「目線はどうでしょう?視線を少し上に設定した方が堂々として見えるかと」


 スタッフが次々と意見を出す。


「じゃあリボンは軽やかに、髪は少し軽量化しましょう」

「瞬きは自然すぎて逆にリアルっぽいので、Vtuberらしく少し大げさに」


(細部まで、こんなに考えられてるんだ……)


自分を見つめる


 私は軽く手を上げてみる。

 画面の中で、夜宵アリアも同じように手を振る。


 声を出してみた。

「……こんばんは、夜宵アリアです」


 透き通る声に合わせて、唇が美しく動いた。

 瞳がきらめき、頬がわずかに緩む。


(これはもう、“キャラ”じゃない。

 私自身だ)


スタッフの反応


「素晴らしいですね。この一言だけで空気が変わります」

「やっぱり歌だけでなく、存在感そのものに力がある」

「これならデビュー配信、間違いなくインパクト残せますよ」


 スタッフが目を輝かせる。

 私はモニターに映る自分を見返し、胸に手を当てた。


(……受け止めよう。“夜宵アリア”として生きる未来を)

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