「無言姫、始めます ~死んで生き返った女子高生、ポイント制で最強ゲーマーからVtuberへ~

kuroeru

第1話「無言姫、始動」

気がついたら、私は病院のベッドの上にいた。

 轢かれたはずだった。車のクラクションとブレーキ音、衝撃、そこまでしか覚えていない。


 なのに、目を開けたら、身体は無傷で、まるで何事もなかったかのように呼吸をしていた。


 頭の奥に、声が響く。


《蘇生ボーナスとして、あなたには“成長ポイントシステム”が与えられます》


 唐突すぎて、頭が追いつかなかった。だけど同時に、目の前に透明なウィンドウが浮かんでいた。


【ステータス】

筋力:0 反射神経:0 動体視力:0 集中力:0

知力:0 魅力:0 声質:0 トーク力:0

カリスマ:0 器用さ:0 持久力:0


【所持ポイント】1pt/日(未使用は繰越可能)

【日替わりミッション】条件達成で追加ボーナス獲得


 RPGのステ振り画面みたいだ。

 夢じゃない。私は生き返った。しかも、ゲームみたいに強くなれる。


(……でも、何に振ればいいの?)


 筋力を上げて運動部に入ってもいい。魅力を上げて人生を変えてもいい。

 けれど、いま目に入ったのは机の上のゲームコントローラーだった。


(――反射神経。これで行こう)


 心でそう念じると、脳に電流が走ったみたいに一瞬チリッと熱が走る。

 瞬間、部屋の景色が鮮明に見えた。秒針がカチカチと刻む音まで、遅く聞こえる。


 数日後、私は初めて配信アプリを開いた。

 顔も出さない。声も出さない。ただ画面とゲームだけを映す。


 設定を確認し、マイクをオンにして、深呼吸。


「……始めます」


 自分でも驚くほど小さな声が、イヤホンから返ってきた。

 それで十分だった。すぐにミュートボタンを押し、ゲームを起動する。


【コメント欄】

初見A:え、女の子?声ちっさw

視聴B:始めますしか言わんの?

匿名C:まあいいや、ランクマッチやるっぽい


(……落ち着け。最初の1ptは反射神経だ。失敗するはずがない)


 格闘ゲームのランクマッチが始まった。

 相手の牽制が見える。ワンテンポ早く“差し返す”――手が勝手に動くみたいに正確だ。


【コメント欄】

user_11:おお、今の差し返し綺麗

古参ぬし:初配信でこれは普通に上手い

モデ:※誹謗中傷は控えてください


(行ける。……これ、勝てる!)


 コンボがつながる。勝利画面。

 あっけないほど簡単に、私は三連勝していた。


【掲示板:無言配信者観測スレ】

1:新規で格ゲー始めた子、黙ってんのに強いぞ

4:無言なの草

8:操作精度ヤバすぎ。差し返し職人


 勝利を重ねるたびに、視聴者数がじわじわと増えていく。

 チャットは盛り上がり、掲示板にはスレが立つ。

 私の“声”は、ゲームプレイそのものだった。


 だが、私はまだ知らなかった。

 この日が、後に“無言姫”と呼ばれる伝説の始まりになることを。


「……終わります」


 小声でそう告げて配信を切る。

 心臓がドキドキしていた。勝った高揚感よりも、「まだ見ぬ自分の可能性」への震えで。


【ステータスログ】

◆ 所持ポイント:1pt

◆ 本日の配分:反射神経+1

◆ ボーナス獲得:なし

◆ 現在の主な成長:

 反射神経Lv1

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