第2話 影鬼衆の襲撃

 王都は歓喜に包まれていた。黒竜騎将バルザークを倒した知らせは瞬く間に広がり、広場は民衆の歓声で溢れていた。

 王は玉座で青年に向かい、深く頭を垂れた。

「勇者よ、そなたこそ国の希望。願わくば、この先も力を貸してはくれぬか」


 青年は答えに迷った。自分はただ巻き込まれただけ――それでも、この世界で生きるためには戦うしかない。

「……俺にできることなら」

 短く返すと、傍らの王女が瞳を輝かせた。

「勇者様、どうか民をお守りください」


 その時だった。広間の影が揺らぎ、黒装束の者たちが音もなく現れた。

「影鬼衆……!」騎士カインが叫ぶ。

 王女を狙って飛びかかる暗殺者たち。鋭い短剣が月光のように煌めく。


 兵士が迎え撃つも、瞬く間に倒れていく。

「クク……王族の血を絶やすのが我らの使命」

 王女の喉元へと刃が迫る。


 だが、次の瞬間――。

 空気が裂けた。

 青年の剣が閃き、影ごと暗殺者を斬り裂いていた。


「なっ……影を、斬っただと!?」

 驚愕の声と共に、残る者たちが一斉に襲いかかる。

 青年はただ一歩踏み出す。

 覇断――すべてを切り裂く力。

 床を走る影も、空気を縫う刃も、敵の肉体も。

 全てが音を立てて裂け、断末魔と共に闇へと消えた。


 広間に再び静寂が訪れる。

 王女は胸を押さえ、震えながら青年を見つめた。

「あなたは……本当に、人なのですか……?」


 最後に残った影鬼衆の一人が、血に濡れた唇で嗤った。

「愚か者ども……魔王様は既に“真なる兵”を目覚めさせている……お前の力すら、無に帰す存在をな……」


 そう言い残し、影は崩れ去った。

 残されたのは、不穏な予兆だけだった。


 青年は剣を握り締める。

 覇断の力があっても、この先に待つ敵は――ただの化け物ではないのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る