三章 うゆ

第7話 怪物と眼鏡 前編

書庫の壁側にある本棚、その向こうに見える窓から見慣れたオレンジ色の光が射していた。

「帰って来たって事でいいんだよな」

「…多分」


時計は案の定数分しか進んでいなかった。

「へえ不思議なもんだな。服の汚れとかも元に戻ってるし」

「…」

「どしたのミゾレ」

「…蔵開ける前」

「あーめっちゃ怒ってたって?」

「…うん」

「まぁ事情があんだよ色々」

「…」

花曇はそれ以上聞かない事にした。

二人は書庫を出て廊下を歩く。

凍星の部屋の前にはまだプリントが置かれたままだった。

「なあミゾレ、凍星さんてどんな人?」

「…シャイで真面目」

「んーなんか分かるわ」

「…あとビビり」

「へー。…てことは凍星さんがこの家に居るのはまずいんじゃねえのか」

「……やばいかも」

「さっさと見つけねえとな」

「…私も質問」

「何?」

「…羊間さんはどんな人?」

「あーユウヒはめっちゃ聞き上手なんだが、聞き上手すぎてアイツの情報少ないんだよな。」

「…ミステリアス」

「あとあいつが読んでる本見せて貰ったんだけど中身官能小説だった。あーこれ内緒な」

「…」(前言撤回しようかなの意)


階段の下から音がした。

二人が降りてみると音は一階の東側、和室の反対から鳴っている。

「あっち何があんの?」

「…台所」

台所の入り口、すり硝子の引き戸を開ける。

「次はやべえのが出ないと良いんだけどなあ」

「…!」(二度ある事はサンドストームって言うよねの意)

「言わねーよ」

二人が台所に一歩踏み入れると_



そこは通路だった。

タイル張りの冷たい床に白い壁。青白く蛍光灯が点滅している。左右の壁に幾つものドアが等間隔で置かれており、廊下の奥は暗がりで見えない。

その病室の様に無機質な人工の光景は生命の気配を一切感じさせず、異様さを放っていた。

「なんか施設って感じだな」

花曇が上を指差す

「…電気」

「あーそうか、電灯つけれる奴が居るわけだよな。田園より人がいそうな感じはするよな」



「危ないよお姉ちゃん達」

唐突に聞こえた見知らぬ声に二人は勢いよく振り返る。

9メートルほど先、右側手前から三つめの扉から

小学生ほどの少女が顔だけをひょこりと出している。少女は言葉を続ける。

「ここには怪物が居るから早く隠れたほうがいいよ」


入道は案の定と言う風に肩を落とす。

「やっぱり居るんだよなあ」

「…二度あることは三度ストーム…」

二人は少女に向き直る

「で、お嬢ちゃんはなんでこんな所に?」

「パパが傘を忘れて、それを届けに来たら変なのに襲われたの」

「…変なの」

「うん、ピンク色でぶよぶよしててね」

「それが怪物ってやつか」

「うん、そーゆーことだから早く隠れて」

「なるほどね」


二人は少女に向かって歩き出す。その時

「はいストップ二人とも」

後ろから引き止められる。

振り返るとそこには、短く切られたやや灰色がかった髪、丸い眼鏡に青いヘアピンの学生服。

「…⁉︎」

「ユウヒ!」

「お久しぶり」

それは羊間夕日だった


_____________________

後編につづく

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