3話裏 枷と寝起き(side入道)

 ずっとかせがあった。

 入道家は先祖代々の何たらで決まり事に厳しく、家の女は勇しくあるべきだとか何とかで、物心つく頃には武道だの習い事だので遊ぶ時間は殆ど無かった。スカートなんか制服以外で買ってもらえなかった。学年が上がるにつれ何の話題も持ち合わせていない事がみるみる自分を孤立させていく。あたしは聞き上手になった。そうすれば自分のことを話さなくて済んだから。

 高校で制服が選択制になってスカートをやめさせられた時、何かが吹っ切れた。その日からあたしは習い事に行かなくなった。何をする事も許されないまま大人になるのが怖くなったのだ。放課後、習い事の時間を潰せるのなら何でも良かった。映画を見た。買い食いもやってみた。その間だけ自分の枷を気にしなくて良くて、少しだけいい気分だった。ミゾレがプリントを届けに行くと聞いて、良い口実ができたと思った。だからあたしは__


ぱちん


「痛ッてァ!」

頬に走る痛みと間抜けな音で入道は目が覚める。変な鳥に遭ってから眠っていたようだ。

金の稲穂に囲まれ、ミゾレが目の前に座っていた。どこだここは。てかなんで外にいるんだ。

「…おはよ」

ミゾレは起きた入道に何をどう説明したものかとあくせくしていた。


しばらく枷の事を考えてる暇はなさそうだった。


____________________

3話中盤に続く

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