クォーター
ロックホッパー
クォーター
-修.
「誰かと待ち合わせ? 暇なら、一緒にお茶でもどう・・・」
まただ。少し歩き疲れたのでベンチに座った途端にこれだ・・・。やれやれ。私は19歳のIT系の専門学校生。ゆったりとした黒のトップスとボトムスで、できるだけ目立たないようにしているつもりだ。まあ、母親が南ヨーロッパ出身なため、顔はどう見てもハーフで目に留まりやすいという自覚はある。だからワンレンにして、いつもうつむいて顔を隠しているのに・・・。今日は二人目だ。男性の子孫繁栄本能というやつだろうか、目ざとい。
「あ、彼氏と待ち合わせなので・・」
「じゃ、彼氏が来るまで話そうよ・・」
チャラい上にしつこい。固まってもらおう。私は髪をかき上げ、男と目を合わせた。そして男は固まった。「固まった」といっても動きが止まったに過ぎない。祖母なら一瞬で相手を石化し、殺してしまうところだが、私の場合は1秒ほど見つめると相手の動きが数分止まり、併せて目を合わせる前の数分間の記憶がなくなってしまう程度だ。母も同じだった。そう、私にはメデューサの血が流れている。つまりはメデューサと人間のクォーターだ。祖母より力が弱いのは人間の血が混じったせいで呪いが薄れたということなのだろう。私はそそくさとベンチを離れて歩き去った。
祖母の晩年は恵まれていた。呪いで怪物にされて、数千年生きていたが、偶然にも全盲の貴族と恋に落ち、巨大なお屋敷の一室で人目に触れることなく暮らしていたらしい。祖母がメデューサであることはお相手の貴族とその執事のみが知っており、執事は目を見つめないように苦労していた。そして、母を産み落とした瞬間、祖母は灰になって消え、母はお屋敷の召使いたちに育てられたそうだ。
母は外観こそ普通の人間だったが、見つめた相手の動きを止めてしまうという呪いのほかに、不老という呪いも残っていた。1ヶ所に留まると、歳を取らないことで周りから不審に思われるため、大人になってからは全世界を転々としていたそうだ。そして、日本に来た時、弱視の資産家と恋に落ち、私を生んだ。
ときどき思うのは、隔世遺伝で髪の毛が蛇にならなくて良かったということだ。頭上で蛇を飼うとなると、蛇たちに生きたカエルとか虫とか、エサをやらないといけないかもしれない。もし、食べこぼしが顔に落ちて来ようものなら気絶してしまうだろう。かといってエサをやらないと、顔に噛み付くかもしれないし・・・。
私が18歳になり、専門学校に入った時点で、母は私を日本において旅立った。二人一箇所に固まっていない方が良いという判断もあるのだろう。生活費は、祖父の莫大な財産が基金化されており、定期的に振り込まれるため困ることはなかった。
私は専門学校で講義を受けた後、少し買物をして家に帰る途中だった。そして、家に向かって歩いていると、グレーのスーツを着たビジネスマンらしき男がスマホと辺りを交互に見ていた。どうも道に迷っているようだ。私は、対応するのが面倒くさいので、声を掛けられないように少し距離を置いて歩き去ることにした。しかし、男の動きはすばやかった。
「あの、すみません。駅はどっちに行けばいいんでしょうか。方角が分からなくなってしまって・・」
私は見つめすぎないように男をちらっと見た。男は30歳前後だろうか。内勤なのか色白で、おどおどしている感じだ。
「え、どこの駅ですか?」
いかん、つい答えてしまった。
「えー、渋谷のコンベンションホールで日本医学会があった帰りで、千葉に帰りたいのですが、どこの駅がいいかもよく分からなくて・・・」
こいつ医者なのか。確かに、いつも軽く声を掛けてくるチャラい男たちとは違うようだ。私は「日本医学会」の言葉に引っ掛かって、話が飛んでしまった。
「え、どこに帰るんですって・・」
「あー、千葉です。」
「千葉ですね。」
ふーん、千葉の医者か。この若さなら開業医ではないだろうが・・・。私は、少し興味が出て、また男の顔を見つめてしまった。おどおどしているが、誠実そうな顔に見える。少なくとも嫌いなタイプではない。そして、いかん、長く見つめすぎたと思った瞬間、男は私から目をそらした。
「えっ・・」
私は驚いた。目をそらされたのは初めてことだった。どんな男でも見つめあったまま固まってしまうはずなのに・・・。
「あの、えーと・・・」
私から道案内の話は飛んでいき、全く未経験の事態にうろたえてしまった。
「すみません。あまりにお美しいので・・・」
シャイなため私を見つめ続けることができなかったということか。私はこの男となら、何か付き合っていけそうな気がし始めていた。
おしまい
クォーター ロックホッパー @rockhopper
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