第3話 デートのキャンセルされました。

 蓮くんと体の関係を持った日が、最初で最後のデート。

 

 そこから誘いまくっているけど、全然答えてくれない蓮くん。


 一度だけ、日程を決めて、行く直前までの日があったんだけど…。



 

 ポンと入った深夜の連絡、蓮くんからだった。


 

 後日の蓮くんの職場。

 

 むすっと不機嫌オーラを出す私と、それを気にしない蓮くんが向き合って座ってる。

 

 私の様子なんて気にしてません!って感じで、いつも通り、書類に目を通していた。


 蓮くんは、私が怒ってる理由を知らないはずがない。


 だって、私のことを気にしているのが、目を合わせてくれなくても、様子でわかるもん。


 そうやって、いつも気にかけて心配して、観てくれていることを知っているから。

 

 蓮くんは、私のことを鈍感だっていうけど、ちゃんとわかってるだからね!


「蓮くん」


「はい。なんですか?」


「楽しみにしてたの」


「なにをですか?」


 わかってないふりをする蓮くんを、逃がさないって気持ちで、テーブルの下から足を絡めて、のぞき込むように目を合わせた。


「デート‼」


「…違います。ただラーメン食べに行く予定だっただけです」


「違わない、デートだもん。デートだもん…」


 行きたかった気持ちが込みあがって、駄々をこねる子どものような声になる。


「あのとき、楽しみにしてたんだよ」


「すみません」


 心のこもっていない謝罪が届く。


 でも、そのときのLINEでは、蓮くんだって楽しみにしてたんだ、って思う、「申し訳ない気持ち」がしっかり伝わった。


 蓮くんは、私とちょっとすれ違ってから、ツンデレが加速した気がする。


 私は定期的に蓮くんの職場にお邪魔する機会があり、こうやって仕事の時間を通して、プライベートのお話までしていた。


 もしかしたら、周囲の人たちに、私が蓮くんを好きなことが、ばれているかもしれない。


 隠しているつもりはないし、蓮くんも、それをとがめることをせず、受け入れている。


 やっと目線を合わせた蓮くんは、申し訳なさそうな子犬を連想させる表情で、私を見つめた。


「ほんとに頭痛がひどくて…」


 その声に、言葉に、嘘がないことは知ってる。

 

 ただ、もうないだろうなと思うデートに対する未練を、消せなかっただけ。


「大変だったよね、仕事のときが心配になったよ…」


「薬飲んで耐えるしかないですね」


 我慢強い蓮くんらしい対応だと思った。


「雨が降る前が痛い?雨が降った後が痛い?」


「雨が降る前ですね。降ったらましになります」


「また予定立ててくれる?」


「行く日が、雨の日の前日でなければ」


「うーん…、読めないね」


 蓮くんの様子は、行ってくれる気持ちがあるのか、ないのか。


 流れたデートは、次、また計画が立てられる日があるのかな?


 奇跡に近いような瞬間だったと思うから、そのタイミングはもう、こない気がしてるから…、キャンセルになったデートへの未練が、手放せずにいた。


「雨じゃない前日で、予定を立てようね!」


「雨じゃなければね」


「雨降ったら、蓮くんちにお見舞い行くね」


 諦めませんってテンションで、蓮くんに食らいつく。


「来なくていいです、実家です」


 知ってるもん。


 蓮くんとデートしたときに、おうちまで案内してくれたこと、お母さんの話とか、蓮くんの元カノ話とか、ぜーーーんぶ、覚えてる。

 

 好きな人のこと、忘れないよ。


 上手いこと、蓮くんを動揺させるワードを選ぶ私に、蓮くんが焦りを見せる。

 

 私は負けじと応戦した。


「お母様にご挨拶するね!こんにちはー!って。」


「やめてください。仕事でいません」


蓮くんの休みは平日、お母さんのお休みは土日らしい。


「じゃあ、私が蓮くんのお部屋に行って看病するね♡」


ゴリ押しをやめない私を拒絶するように、蓮くんは焦って口走る。


「俺の部屋、ゴムないんで…‼」


「……へ?」


 しばし、目が点になった後、私の顔がぼんっ‼と赤くなる。


 意味を悟るのに、少しの時間を要したのだ。


 平然と作業に戻る蓮くんは、ここが蓮くんの職場だということを、忘れているのでしょうか。


「しないよ‼」


(私がゴムつけないとしないこと、しっかり覚えてるじゃん)


 普段生でする蓮くんが、私のときはしっかりつけてくれたこと、私も忘れてない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る