第41話「牙の初陣、刻まれし契約」
王都からの使者がやってきたのは、工房に火が灯る少し前の朝だった。
「《火の牙ギルド》宛、王都防衛局より正式な契約依頼にございます」
無骨な甲冑に身を包んだ騎士が、重々しい口調でそう告げた。
「これが依頼書……」
オリンが巻物を受け取り、火の前で開く。そこに記されていたのは、国境沿いに建設中の“魔障壁”――対魔族用の防衛装置の中核部品となる「魔力律動炉」の試作依頼だった。
「納期は一ヶ月。要求される刻印精度はAランク、素材選定はギルドに一任。報酬は王都直轄ギルド待遇と……」
「“国営鍛造名鑑”への掲載だと?」
サーシャが驚きに声を上げた。
それはつまり、《火の牙》の名が王国中に広まるということだ。
オリンは静かに頷くと、巻物を火にかざした。
「……嘘がないか、見極める」
契約書の端が薄く焦げ、やがて文字が赤く光った。
「問題ない。受けるぞ」
弟子たちの顔が、一斉に輝いた。
◆
数日後、工房は活気に満ちていた。
「親方、素材の《晶鋼石》、到着しました!」
「俺の研いだ刃で、グリトの刻印テスト済みだ。相性は上々!」
「紋章入りの封刻箱、今磨き直してるよ!」
フェン、グリト、ライラの三人は、息を合わせて動き回っていた。
そんななか、オリンはサーシャを呼び止めた。
「サーシャ。今回の刻印、お前に任せる」
「えっ……でも、これは王都案件。私なんかが……」
「“なんか”ではない。お前は、俺の弟子だ。
“火を継ぐ者”として、胸を張れ」
サーシャは目を見開いた。だが、その瞳に宿った迷いは、ゆっくりと熱へと変わっていった。
「……はい。私がやります!」
◆
作業は、文字通り“火と刻の戦い”だった。
素材の精製温度は1850度。
魔力制御範囲は0.01以下の誤差で統一。
刻印線は全48層、しかも三重構造。
サーシャの手は震えたが、心は揺れなかった。
(私は、親方の火で鍛えられた。私の“刻印”で、証明するんだ)
フェンは黙って刃を磨き続け、ライラは設計図のミスを黙って正した。
グリトはサーシャの魔力バランスを見て、補助回路を自作して差し出した。
「……ありがとう、みんな」
息を整え、サーシャは深く炉の光を見つめた。
そして――
カン……カン……カンッ!
響いたのは、確かに“火の牙”の一打一打だった。
その刃は誰よりもまっすぐで、迷いなく、ただ“未来”を見つめていた。
◆
完成した「試作律動炉」は、使者を通して王都へと送られた。
その数日後。
再び訪れた使者は、驚きに満ちた報告を告げた。
「王都鍛冶評議会より正式な評定が下りました。貴工房の製作物は、……“Sランク”と認定されました」
工房中に、歓声が広がった。
「すごいぞ、サーシャ!」
「やったな、姐さん!」
「これで、“火の牙”も名実ともに認められたってことだね」
サーシャは言葉を失っていた。けれど、気づけば、涙が頬を伝っていた。
「……うれしい。すごく、うれしいよ」
オリンは静かにサムズアップし、そしてこう告げた。
「これが、“お前たちの火”だ」
そう。その炎は、確かに弟子たち自身の火であり、牙だった。
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