第2話 追放と再就職先

「ルイ! お前は、クビだ!」


 冒険者ギルドで、パーティーリーダーのホークに告げられたのは、僕がゴブリンの巣に突入する10日前の事だ。


「そ、そんな……!」


「お前を俺たちのパーティに入れて金を渡す余裕は、正直言って、ない!」


 僕のいた冒険者パーティは、リーダーで戦士のホークを主軸として、魔法使いのエレナ、そしてタンク役で、ホークと同じく戦士のガンジョー。


 そして僕がいるわけだが――――――僕は、ここ1年、冒険の現場に出てない。


 その理由はどうしようもなくシンプル。


「1年ずっとお前にはギルドで、クエスト受注の手続きなんかをやらせてたわけだが……現場で命張っている俺たちと比べて、お前の貢献度はだいぶ低いわけだ」


「そ、そりゃそうだけど……だから、僕の毎月のお金は、皆の半分以下じゃないか!」


「そうなんだけどね。ランニングコストって言うのかしら。結構かかるのに気づいたのよね」


「それに、クエストの受注手続きなんて、自分達でやればいいわけだしな」


「……そういうことだ。そうすりゃ、俺達はお前の給料の分、金に余裕ができる。装備を新調したり、道具を買ったりな。そっちの方が有意義だろ?」


「そんな……!」


 言わんとしていることはわかる。事務なんて誰でもできる、というのは。それを自分たちがやれば、事務専門の自分が不要になることも。


 でも、だからって……!


「ま、待ってよ! 2年も一緒にやってて、最後がこれ!?」


「2年って、実質1年だろうが! 1年で俺たちのレベルに、着いて行けなくなりやがって! 期待はずれにもほどがあるぞ」


「それは……ホントにごめん! だけど……」


「とにかく! そういうわけだから、お前はたった今限りでクビな! じゃ、俺たちはクエスト行くから」


「あ、待ってよぉ!」


 僕が止めるのも聞かずに、3人はギルドを出て行ってしまった。……僕が受注したクエストをこなしに。


「……はぁ」


 ……振り返ることもなく、行っちゃった。背中から感じる様子を見るに、「ようやく重荷を外すことが出来たぜ!」って感じかな。


「ルイ先輩、ダイジョブですか……?」


「ああ、ティーナちゃん。今からクエスト?」


「はいっ!」


 びし、と敬礼を返してくれる、ティーナちゃん。冒険者になって、まだ半年くらいのひよっこさん。天真爛漫な笑顔が眩しい。


「これからゴブリン退治に行くところです!」


「そう。ゴブリンって言うと、巣穴に行く感じ?」


「そうですね。暗いし狭いところなので、私の腕の見せ所ですっ!」


 しゅ、しゅ、とシャドーボクシングをして、ティーナちゃんはにっこり。彼女は武闘家なので、狭いところでのスピードを活かした戦いに向いている。


 ……この10日後に彼女がゴブリンの孕み袋になってるだなんて、想像だにしなかった。


「あ、そうだ! ティーナちゃん、良かったらそのクエスト、僕にも……」


「ごめんなさい、もうパーティが4人埋まっちゃってて……! じゃ! 頑張ってくださいねっ!」


 パタパタと掛けていく先には、1人の男の子と、2人の女の子。記憶をたどれば、巣穴で事切れていた女の子たちは、彼女らだったか。


 後輩にもフラれてしまった僕は、途方に暮れてギルド奥の酒場に腰掛けた。ちょうど昼休憩中の冒険者たちが、此方を見てクスクスと笑っている。


(見ろよ、ルイの奴、とうとうフラれちまったな)


(しょうがないわよ。ここ1年はほぼギルド職員じゃない)


(いっそギルド初の受付として働いた方がいいのかもな……)


 そう言われているのが丸聞こえで、僕はシュンと落ち込んでしまう。確かに、ギルドに朝早く来て、夜遅くまでクエストの吟味なんかをして帰るのは、冒険者というより受付の仕事だ。そしてそういう仕事は、大抵女の子がやるものと相場が決まっている。


(……どうしよ、これから……)


 ホークが僕をクビにしたのは、寄りにもよって次の給与の直前。


 多分あの言い草だと、退職金なんかも出ない。そして僕には、貯金がない。日々の生活だけでカツカツだ。


(……何よりもまず、家賃!)


 下宿の家賃を払えないと、追い出されてしまう。そうなると、冒険どころではない。


 咄嗟に財布を確認し、残金は金貨7枚。家賃の支払いは金貨3.5枚(金貨3+銀貨5枚)。今月分くらいは大丈夫だけど、来月がヤバい。


 来月払える保証がないと、大家さんに先んじて追い出されちゃうかもしれない。


(来月までの家賃、何とかしなきゃ……!)


 冒険とか言ってる場合じゃない、まずは最低限の生活を確保しないと。


 そう思いめぼしいクエストを探したが、良さそうなのは何一つ見つからなかった。


(ダメだ……! やっぱり、ソロのFラン冒険者には実入りが良いのがないよ!)


 最低の冒険者ランクであるFランクの僕が一人でできるクエストなんてたかが知れている。簡単な野草採取や小動物の狩り程度で、どれもこれも報酬は金貨1枚以下。


 1日の食費なんかを考えると、貯められる量は少ない。家賃くらいは何とかなっても、それ以上はない。


(……そうなると、どこかでバイトとかかな……)


 それこそ、ギルドとか。でもあんまり冒険者とギルドが癒着すると、良くないって言うしな。


 どっか、別の場所の求人ないかな……と、僕は今まであまり行ったことのなかった、仕事募集の掲示板に向かった。


 ここには冒険者の仕事だけでなく、色んな仕事が貼りだされている。それこそ日雇いの肉体労働だったり、あるいはお店の給仕の仕事だったり。めぼしいクエストはないが働きたい意欲のある冒険者が、直接ここから仕事しに行ったりしている。


 そんな僕が出来そうな仕事。できれば肉体労働は避けたい。あの辺も、上のランクの冒険者の取り合いになっている。給仕の仕事も、女の子しか採用されない。


(とほほ……弱っちい貧弱な男には、生きづらい世の中だなあ……)


 そんな風に思いながら求人を見ていたら――――――掲示板の端っこに、ひらひらと揺れる広告があった。


(?)


 なんとなく気になって手に取ってみる。そこにはでかでかと、こう書いてあった。


『【クロガネローン】 アットホームな職場で楽しく働けます。入社祝い金として金貨20枚支給(給与とは別)! 冒険者なら経験不問! ※算数ができる方ならなお良し』


(……あれ、これいけるんじゃない?)


 経験不問、そして「算数ができるならなお良し」の文字。散々事務作業をやって来たし、計算とかなら得意だ……と思う。少なくとも、一般冒険者よりは。


 あとは何より、「入社祝い金として金貨20枚支給(給与とは別)」だ。こんなの、まさに僕にとって、渡りに船じゃないか。


 それに、ほかにできそうな仕事もなかった。そうなると――――――行くしかない。大丈夫、ダメなら帰ればいいんだから。


 そんな軽い気持ちで、僕は【クロガネローン】のドアを叩いた。


 ……いやマジで、叩かなければよかったと。


 僕は今、心の底から後悔しています。


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