僕はダンジョン都市の金貸し屋さん。~追放されたので、悪党の街の最悪の金貸し屋で、最高の金貸しを目指します~

ヤマタケ

新人金貸し屋ルイ・エヴァンス

第1話 孕み袋になってしまった君へ。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッッッッ!!」


「うひゃあああああっ!?」


 耳がおかしくなりそうな絶叫が狭い洞窟内に響いて、僕は思わず身体を震わせた。


「おいおい、元冒険者が、何ビビっとんねん?」


「一応まだ現役ですっ! てか、元冒険者って言ったって、いきなりこんなの聞こえてきたらびっくりするに決まってるじゃないですか!?」


 怯える僕の先を、坊主頭の大柄な男――――――が歩いてる。足元にある、ゴブリンの死骸を踏みつぶしながら。


「それに僕、実際に現場に来たの、1年ぶりくらいですし……」


「はー。お前……ルイ、だったっけ? お前それでよう冒険者なんて名乗れたのう。そりゃ、パーティー追い出されるのも無理ないわ」


「うぐぐ……」


 マンダさんは毒を吐きながら、のしのしと洞窟を歩いていく。

 

 悔しいが僕は、そんなマンダさんに着いて行くのが精いっぱいだ。この人、性格も口も悪いが、実力だけは僕よりも遥かに高い。

 ついさっき会ったばかりだけど、それだけははっきりとわかる。


「それにしても、さっきの声……この巣穴の親玉か? 声の太さ的に、あたりやろうな」


「ゴブリンキングって……Cランク相当の魔物じゃないですか! 駆け出し冒険者が相手できるもんじゃないですよ!?」


「そやのー。ま、巣穴から出て来なけりゃ、特定しようもないわな」


 そして巣穴で出会ったところで、新人冒険者には手に余る相手。大方がすりつぶされて、殺される。あるいは……。


「……ま、今回ばかりはソイツに同情するわ。よりにもよって、社長と出くわすなんて」


「……本当に、ひょいひょい行っちゃいましたもんね」


 ゴブリンの巣穴を進む僕らの周りには、夥しい数のゴブリンの死骸が転がっている。


 だが、殺したのは僕でも、マンダさんでもない。


 僕はいきなりこんなところに来るなんて思ってなかったので、常備しているナイフくらいしか持ち合わせてない。


 マンダさんに至っては素手だ。……まあ、この人の腕力なら、ゴブリンくらいひねり殺せてしまうんだろうけど。


 転がっているゴブリンたちは皆、首と身体が切り離されている。


 目をかっぴらいたまま死んでいるさまを見る限り、恐らくコイツらは、自分のみに何が起こったのかも分かっていない。認識する前に、首を刎ねられたのだ。


 そんな死骸が、ここに来るまででもざっと数十匹。殺し方が同じなのを見る限り、やったのはたった一人。


 その人は、巣穴最深部の広い空間で僕らを待っていた。


「――――――あ、!」


「マンダ、遅いですよ?」


 ナイフを片手に僕らを待っていた、長身痩躯の男性――――――マンダよりも遥かに若く、でも僕よりもずっと年上。糸目の柔和な笑みを浮かべて、襟足を束ねた髪を揺らしている。


 だが目立つのは、その人の後ろにある、大きな死骸と、周りにある大量の小さな死骸。すべてゴブリンの死骸で、道中と同じように、首と胴が切り離されている。


 とりわけ大きな死骸はさっきマンダさんと話していた、ゴブリンキングだ。他のゴブリンの死骸同様、一撃で殺されている。


 というか、だ。すべてのゴブリン、大きさも何もかも違うゴブリンたちの首が、全て同じ一撃で切り落とされている。


(……い、一体どうやったらこんな殺し方になるんだ……?)


 たった一人、しかも暗い洞窟の中で、明かりも持たずに。それだけで、この人が底知れない実力を持っていることが分かる。得体が知れな過ぎて、吐き気すら覚えるくらいだ。


 それが、クロガネ社長という男だった。


「2人とも、奥にありますから、手伝ってください」


「へい! おい、行くでボウズ」


「はい……」


 正直、気は進まないが、行くしかない。僕は意を決して、ゴブリンの死骸の中を、2人に着いて行った。


「ああ、いたいた」


 ゴブリンの巣穴の奥底。そこにあるものは、大体決まっている。


 ゴブリンの宝物――――――すなわち、戦利品だ。


 殺した冒険者の装備、盗んだ家畜の肉と骨。そして――――――女。


「う、あ……」


「……ひどい!」


 ゴブリンに捕まる女というのは、村から攫われた村娘か、ゴブリンに敗北し巣穴に連れ込まれた、または巣穴に潜入して返り討ちに遭った女冒険者だ。


 そしてそういう娘たちはほぼ例外なく、同じ目に遭う。


「アー、アー……!」


「うわぁお、ちょうどやんけ! この女」


 手足を縛られ、吊り下げられている娘は3人。その内2人はピクリとも動かないが、体のあちこちに刺さった刃物や無数の傷跡を見る限り、凄惨な目に遭ったのは間違いない。


 そして唯一動いている娘の股からはへその緒がのび、その先には醜悪な小さい塊が、ピクピクと蠢いてうめき声をあげている。


 捕まった娘の末路、それは――――――雄しかいないゴブリンの、だ。


「可哀想やのー、ホンマに」


 蠢くゴブリンの赤子は、マンダさんにグシャリと踏みつぶされる。クロガネ社長は他2人の顔をうかがっていたが、首を横に振った。


「ダメですね。こっち2人とも、死んでいます」


「そんな……」


「あ……あ……」


 唯一生きている娘が、かすれ声を出した。僕はすぐに、ナイフで彼女の拘束を解いてあげる。傷だらけの裸体に、すぐに布をかけて覆ってあげた。


「だ、大丈夫? 助けに来たよ! しっかりして! ――――――ティーナちゃん!」


「……ルい、せん、ぱい……?」


 ティーナと呼んだ娘の目に、みるみる涙が溢れて来る。


 今この場でゴブリンの孕み袋にされていたのは、僕の後輩だ。


 僕は咄嗟に、用意していた水袋を彼女の口にあてがう。ほとんど飲むことはなかったが、唇を湿らすくらいはできたはずだ。


「……わ、わたし……わたし……みん、みんなも……」


「もういいよ、何も言わなくていいから!」


「そうですよ。まずはここを出るところから始めましょう」


 ひょこっと現れたクロガネ社長はティーナちゃんを肩に乗せる。細身ながら、人一人を軽々と運ぶ当たり、この人の筋力は相当なものだ。


「大丈夫。もう、大丈夫だから……!」


 抱えられているティーナちゃんは、相当な傷を負っている。身体もだが、1番はその心に。優しい言葉をかけるくらいしか、僕にできることは思いつかなかった。


「そうですよ、もう大丈夫。どんな目に遭っても、生きていればどうとでもなりますから」


 クロガネ社長はにこやかに笑いながら、再びゴブリンの死骸を踏んで歩きだす。


「……きっと大丈夫! だから、まずはここを出て、頑張りましょうね?」


「……っ!」


 社長の言葉に、僕は喉から言葉が出掛けて、詰まる。


「パーティーが全滅しちゃったので、4人分。金貨40枚の利息は10日で金貨4枚ですが。まあ、生きてりゃ稼げます。死んじゃったらそれまでですから」


「ころ、して……ころして……」


「それは、全額返済してからでお願いしますね?」


 ティーナちゃんの目から、一筋の涙が流れてこぼれ落ちた。


 そう。僕ら【クロガネローン】がこのゴブリンの巣穴へと乗り込んで彼女を助けた理由は、決して慈善事業などではない。


 ティーナちゃんたちの冒険者パーティーが借りたお金、合計金貨40枚。その返済をさせるために、ゴブリンの孕み袋になっていた彼女を、わざわざ引き取りに来たのだ。


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