第28話
確信が持てなかった気持ちに、抱きしめて改めて恋だと確信した。
恋愛経験など全くない凛と奏。
だが、お互いに感じている欲求はどうも友人に抱くようなものでは無い事くらいはわかっていた。
高鳴る鼓動や沸き上がる欲望の原因。
その欲望に対し凛の方が一歩先に気付き、踏み出している。
この気持ちに気付けたのも、不本意ながらアイツのおかげとは・・・
男子校に通う凛は、生徒達からいつも遠巻きにされていた。虐められているわけではない。凛が醸し出す『話しかけるな』という雰囲気に忖度した形だ。
だが、ただ一人だけやたらと構ってくる男がいる。自称「モテる男」だそうだが、お調子者で惚れやすく色んな女性に声を掛けてはフラれている。
その経緯を事細かに凛に語ってくるのだ。頼んでもいないのに。
その中でよく聞くのが、女性を好きになった時の自分に起きる変化だった。
「もう、あの子の顔を見れた日にゃ、天にも昇る気持ちになるんだよ。ドキドキしてふわふわして、いつもと同じ景色なのに超輝いて見えるんだ!兎に角、嬉しいんだよ。全身がお花畑になってしまう位に。だけど、次第に欲張りになってさ、俺を見て欲しくて告白するんだけど・・・・ちくしょう!!なんでいっつもダメなんだよぉ!!」
こんな風に嘆いた二日後には「俺の運命の人を見つけたんだ!」と、既に何人目かもわからない運命の人を語る。
「恋はするものでは無く、落ちるものだ」と得意げに語るが、お前の周りには落とし穴しかないのかよ・・・と、いつも思う。
そんな、訳の分からない男ではあるが、恋をした時に起きる現象はあながち嘘ではないのだなと思うのだ。
凛の耳にタコができるほどの体験談を聞かされていたおかげで、奏に対する気持ちに気付けたのだから。
奏が可愛くて仕方が無い。溢れるほどの好きだという気持ちで胸が苦しい。
だからこそ、自分と奏との間には気持ちに隔たりがあると感じていた。
ドキドキはしてくれているが、それ以上の感情を見いだせない奏の表情に、凛はちょっとだけ面白くない。
魂の波長と言われても正直な所、実感はない。だけど、彼女が大事だと本能的に思うのだ。恋しいとも。
昨晩、ずっと手を繋いでくれていたその温もりが忘れられない。
彼女に恋していると自覚したとたん、奏の側に居たい。彼女を抱きしめたい。彼女の全てが欲しい。
まるで箍が外れたかのように、際限なく沸き起こる欲望に戸惑い、確かめ、心に刻み込む。
そして、彼女にも自分と同じ想いを抱いてほしいと。
これがアイツの言っていた、欲張りな感情ってやつか・・・
「凛?」
急に黙り込んだ凛を心配そうに見つめる奏。
奏も嫉妬はしてくれても、明確に恋だとは自覚していない。ならば、自分と同じく自覚するきっかけを作ればいい。
「奏、俺は奏が好きだ」
「うん?私も好きよ」
想定内の返事だったが、胸の内には落胆の色が広がる。
だが、奏に対する気持ちを自覚してしまった凛は、好きな人に自分を好きになってもらいたかった。
あぁ、むかつくがアイツの言っていた事が、当事者になってみて初めて分かった。
ホント、自分だけを見てほしくて、足掻いてしまう・・・・
凛はこれまでの環境の所為で、人に何かを求めたことがない。
彼自身絵にかいたような文武両道で、これと言って本気で何かに打ち込んだこともなかった。身を守る護身術以外は。
それを言えば周りからは「嫌味なヤツ」だと煙たがられる。なんせ、学校での成績はいつも上位。世の女性は皆、凛に夢中になるのだから。
普段の冷たい態度から禁欲的に見られがちだが、中身は肉食系だったらしい。主に奏限定だが。
凛はそっと奏の頬を撫でながら、上向かせた。
ここは強引に、奏の気持ちをこちらに向かせようと。
だが、申告無しはよくないな・・・と。
まだ恋人でもないのに、突然キスなんかしてしまったら、これまで自分がされてきた事と同じになってしまう。
変なところで律儀な凛は「キスしてもいいか?」と真剣な顔で問う。
驚いたように目を見開き、顔を真っ赤にした奏はまたも反射的に小さく頷いてしまった。
了承を得たとばかりに凛は、魅惑的なその唇に己のものを重ねる。
それは柔らかく、初めての官能を呼び起こす。ただ重ねただけなのに・・・
目覚めた欲望には逆らえず、堪らずもう一度。
これ以上は赤くならないだろうと言うほど、その顔を真っ赤に染め上げた奏。
「・・り、凛・・・あの、今の・・・えっと・・・」
自分から離れていこうとする奏を、ギュッと抱き寄せた。
「奏、好きだ」
酷くシンプルで沁み込むような言葉に、彼女の心に先程の『運命』という言葉がすとんと落ち着いたのを感じた。
触れた唇には凛の感触が残り、ふわふわと浮き立つような気持ち。
言葉では言い表せないような、甘い高揚感。心も身体も、全てが凛という存在で満たされる感覚。
あぁ・・・私も凛が好き。・・・・そうか、一人の男の人として好きだったのか・・・・
お互い求めあっているのに、それが何なのかわからず、喉に小骨でも刺さっているかのような違和感はあった。
漠然と愛だとか恋だとか口にはしても、心には響いていなかったから。
だけど、彼の告白はその言葉に魂が宿っていた。
自覚してしまえば、急に羞恥で身体が熱くなる。
「奏?・・・怒った?」
真っ赤になって視線を彷徨わせている奏に、凛は不安そうに奏の頬を撫でながら顔を覗き込む。
「怒っては、いない・・・その・・・」
「その?」
「私も、凛が・・・・好きって・・・今気づいた」
「・・・・っ、本当?」
「本当」
「恋愛的な意味で?」
「うん」
見つめる奏の瞳には、先程までは無かった熱が確かに灯っていた。
あぁ・・・俺の元に落ちてくれた・・・・初めて恋をしたのが、奏で良かった・・・・
抑えきれない歓喜をどう表現していいのかわからず持て余す凛は、恥ずかしそうに頷く奏に堪らずまたキスをした。
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