農業スキルが最弱? いいえ、収穫量インフレで最強でした ~村娘、異世界で農機ブン回して成り上がる~
てててんぐ
第1話 村娘アヤ、転生する
夏の夕暮れ。
黄金色の稲が揺れる田んぼ道を、アヤは自転車で走っていた。制服姿のまま、カゴには泥だらけの長靴と軍手が突っ込まれている。
「……はぁ、今日も草むしり地獄かぁ」
実家は小さな農家。学校が終われば、友達と遊ぶより先に畑へ直行するのが日常だった。
もちろん不満がないわけじゃない。JKライフを満喫したいお年頃だ。だが、土を耕して芽が出る瞬間のわくわく感を、アヤは誰より知っている。
「次はトマト、うまく実ってくれるといいんだけど」
呟いた、その瞬間。
──ガコンッ。
曲がり角から猛スピードで軽トラックが飛び出してきた。
ハンドルを切る間もなく、アヤの視界は真っ白に染まる。
……そして、暗転。
◇◇◇
目を開けると、そこは見知らぬ草原だった。
空はやけに澄んでいて、空気は甘い。風が頬を撫で、どこか牧歌的な匂いが漂っている。
「……え、なにここ。修学旅行?」
自転車も、制服も、トラックもない。ただ、自分の手だけが鮮やかに残っている。
混乱するアヤの脳内に、不意に声が響いた。
『あなたに与えられた固有スキルは──【農機操作】です』
「……はい?」
農機? トラクターとか? クワとか?
戦闘系スキルとか魔法じゃなくて?
『初期装備として、【木製クワ】を支給します』
目の前に、ぼとりと一本のクワが落ちてきた。
新品ではあるが、ただの木製農具。攻撃力ゼロ、ロマンゼロ。
「いやいやいや、これでどうしろっていうの!? ドラゴンでも耕せって?!」
叫んでも返事はない。ただ草原が広がるばかりだった。
◇◇◇
それでも腹は減る。人間の本能は容赦ない。
仕方なく、近くの空き地を掘り返してみる。クワを振り下ろすと、意外なほど軽い。土はサクサク耕せ、みるみる畑っぽく整っていった。
「……あれ? これ、楽しいかも」
試しに種らしきもの(草の実)を埋めてみた。
すると──。
ぐんっ、と芽が伸びた。
にょきにょきと音を立て、あっという間に腰まで伸びる。
数秒後には、見事な実を結んでいた。
「はぁぁぁぁぁ!? 成長スピード、どうなってんの!?」
信じられない光景に腰を抜かす。
実をもぎ取ってかじってみると、瑞々しくて甘い。胃袋が喜び、体の奥に力が湧いてくるのがわかった。
だが驚きは、まだ終わらない。
「……なに、これ。力がみなぎって……」
視界が一瞬ひらけ、体が軽い。ステータス画面が表示され、【体力+50】【魔力+30】などと数値が跳ね上がっている。
──農機スキルは、作物を育てるだけじゃない。
その収穫物は、食べた者を強化する“インフレ食材”になるのだ。
「ちょっと待って。これ、最弱どころか……最強なのでは!?」
アヤは呆然と呟いた。
しかし次の瞬間、背後の草むらがガサガサと揺れた。
「グルルル……」
牙を剥き出しにした狼のような魔獣が、こちらを睨んでいる。
手にあるのは、頼りない木製クワ一本。
「ちょ、待って! これチュートリアルだよね!? 最初からラスボス級はズルでしょ!」
汗を流しつつ、アヤはクワを握り直した。
異世界農業生活は、まだ始まったばかりだった。
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