第6話 王宮への誘い

 ボス猫ニーナは、ラピンラピンの顔を見つめ直し、話を続けた。


「秘密の任務とは、予言の書の解読だった。王家の秘密も書かれているとされ、極秘で行われていた。そなたの母は、道半ばにして亡くなってしまったが……」


「その任務と、母の死は関係があるのですか」


「なかなか鋭い質問だ。ぼうっとしているようだが、さすがセレナミアの娘だな」 


 そう言うと、ニーナは懐かしそうな顔をした。

 ラピンラピンは、嬉しかった。


「私は、母に似ていますか」


 ニーナはジャンプして、ベンチに上がりラピンラピンの隣に座った。


「容姿は、残念ながら似とらんな。そなたは、どちらかと言えば、まんじゅうに似ている」

「ま、まんじゅう! そんな……」


「その白い肌と、もちもちとした頬がそっくりじゃ。友達に言われないか?」


「いえ、ウシ子さんが初めてです」ラピンラピンは、顔をきりりとして言った。


「ワタシは、ニーナだ。ウシ子ではない。だが、その呼び名、嫌いではない。そなた、センスが良いな」


「ありがとうございます」

            

「ラピンラピンよ。卒業後は、王宮へ来ないか。巫女庁の試験を受けるのだ。母の無念をはらしたいとは思わんか」

 

「私は、母にそれほど思い入れはありません。物心つく前に亡くなっていますから」                      


 思わぬ誘いであったが、ラピンラピンは正直な気持ちを話した。

 そして、足元の地面に落ちていた小石を蹴った。だが、あまり転がらずに、すぐ傍で止まった。


「うむ」ニーナは、頷く。


「ですが、今とても母のことが知りたくなってきました」


「血が騒ぐのじゃな。ならば、次は王宮で会おう。あそこには、まだセレナミアを知っている人間がたくさん残っておるし、ワタシもまだ話したいことが山のようにある」


「ニーナさんも、普段は王宮にいるのですか」


「うむ。では、待っておるぞ」


 ボス猫ニーナは、ベンチから飛び下りると、がたんと音がした。

 尻尾を垂直に立て、悠々と歩いて帰る姿に、前世は高貴な人間だったのではと、ラピンラピンは思った。


 ニーナが去った後、急に風が強くなった。

 黒く薄い雲が、昨夜よりも少し欠けた月の上を、流れていく。


 ラピンラピンは、突然開けてきた未来に、ぼうっとしていたが、さすがに寒くなってきて、慌てて寄宿舎の自分の部屋に戻った。



「どうしたの? そのあたま」

 同室で親友のアリシアが、尋ねた。


「ちょっと外に出たら、風で髪がくしゃくしゃになってしまったのよ」

「あらまあ。どれどれ」


 アリシアは、自分の櫛を手に取ると、ラピンラピンの絡まった髪を丁寧にとかすのだった。


 ラピンラピンは、母がいたらこんなぬくもりが、小さい頃からあったのだろうと、感傷的になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る