第2話 桜井ひまり改造計画その1 身長をたくさん伸ばそう


「お、おはようございます、星宮くん」

 

 声を震わせた桜井さんが僕に挨拶をしてくれる。

 昨日までにはなかった大きな変化。

 桜井さんの澄んだソプラノボイスを向けられただけで僕の心臓は大きく高鳴った。


「お、おはよう、桜井さ——んんんん!??」


 そして桜井さんを見た瞬間、僕の心臓は別の意味で高鳴りを上げた。

 違う。

 昨日までの桜井さんは明らかに様子が違う。

 具体的にいうと目線の高さが明らかに違っていた。


「どうですか星宮君! き、ききき、キミ好みの高身長になってきました!」


「めちゃくちゃ背が伸びてる!? どういうこと!?」


「牛乳をめちゃくちゃ飲みました」


「牛乳をめちゃくちゃ飲んでも1日でここまで背が伸びるはずないでしょ!?」


 どうなっているんだ? 昨日より30センチは背が伸びている。桜井さんの身に何があったんだ!?


「うわっ! 竹馬みたいな厚底ブーツ履いてる!?」


「……いいえ。牛乳パワーで背を伸ばしました」


「どうしてそこまで頑なに嘘を付き続けるの!?」


「うぅぅ、だって厚底ブーツって男性ウケ良くないじゃないですか。これが原因で星宮くんに引かれたと思うと……」


「牛乳パワーで1日30センチ以上背を伸ばしてくる方がドン引きだから安心しろ!?」


「そ、そうなのですか? って、わわっ!」


「あぶない!!」


 桜井さんがバランスを崩してこちらに転倒してきた。

 転んでしまう前に僕は彼女の身体を支えることに成功した。


「だ、大丈夫!? 怪我はしてない!?」


「~~~~っ!」


 僕に抱きかかえられた桜井さんは声にならない悲鳴を上げる。

 顔が思いっきり赤くなっている。たぶん僕も。


「ご、ごめんなさい! 私風情が星宮くんのお手を煩わせたりしてしまって! わ、私なんかに触られて不愉快でしたよね!? あ、安心してください! 除菌90%効果のウェットティッシュ持っていますので! これで私が触れてしまった箇所を拭いてください!」


「いらないよ! 急に卑屈にならないで!? 触られるくらい全然気にしないから!」


「……なるほど。除菌100%のティッシュじゃないと使う気になれないということですね。 分かりました! そこのコンビニですぐに買ってきます!」


「どうしてそうなる!? って、もういない!?」


 ぴゅーっと走り去っていく桜井さん。

 昨日引き続き、またも一人取り残される僕。


「30センチの厚底ブーツ履いてよく走れるなぁ。転ばなければいいけど」


 それにしても桜井さんって動きがコミカルで面白いなぁ。

 教室では寡黙な印象が強かっただけに、そのギャップがなんだかおかしくて、思わずプッと噴出してしまう僕であった。

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