なん、でっ、お姉様……こんな、酷いこと……
わたくしは、愛する二人を引き裂く悪女を……及ばずながら務めさせて頂きますわ!
まずは、準備として深呼吸ですわ。大きく息を吸って――――
「キャーっ!!」
悲鳴を上げます。更に、
「この、
大声で目を丸くしている婚約者を罵り、使用人に妹から引き剥がすように指示を出します。
「なっ、なにを言ってるんだっ!!」
「お姉様っ!?」
「誰か、誰か、妹を守ってちょうだいっ!?」
わたくしの大声に、使用人達がざわめきながら動きます。
「その男が、わたくしの妹へ無体を働いたのっ!? 今すぐ屋敷から追い出してっ!? 早く! これ以上妹が傷付けられる前にっ!?」
「なっ!? ち、違うっ!? 俺と彼女は愛し合ってるんだっ!! その証拠に、彼女のお腹には俺の子がっ!?」
と、弁明にしても悪手を選んだ彼は我が家の男性使用人に取り押さえられて、彼は自身の実家まで連行されることになりました。
「や、やめて! 彼は悪くないのっ!? お姉様っ、みんなを止めてっ!?」
おろおろと慌てる妹に、
「大丈夫よ。あなたは悪くないわ。可哀想に……彼に無体を働かれて、赤ちゃんができたから結婚しなくてはいけないと思ってしまったのね? さあ、今日はもうゆっくり休みなさい。妹を寝室へ」
そう言って使用人へ寝室へ連れて行ってもらいました。
「お姉様っ、お姉様っ!?」
妹は驚愕の顔で、泣きながらわたくしを呼んでいましたわ。
さて、これから忙しくなりますわねぇ?
まずは、お父様とお母様へ報告。次いで、婚約解消……いえ、白紙撤回でしょうか? 更に、婚約者の家へ損害賠償請求。
臥せっていた病弱な妹へ無体を働いたことになった(妹の合意があったにしろ、ある意味なにも間違っていないと思いますが)婚約者の彼には――――おそらく、これから地獄や修羅場が訪れることになるでしょう。即行で勘当され、平民落ち決定かしら?
彼を無理矢理帰した数時間後、家族会議が行われました。
「一体、なにがあったというのだっ!?」
お父様の取り乱した声。
「妹が……あの子が、わたくしの婚約者だった男に寝込みを襲われて……無体を働かれて、妊娠してしまったようなのです。先程、彼があの子と結婚したいとわたくしに告げましたわ」
「なんだとっ!?」
「どうやら、妹が大人しく寝ているからと、妹の侍女が席を外して、目を離していた間の出来事かもしれません。または、妹に懸想していた彼に買収された可能性もありますわね」
「そんな使用人は即刻
お母様の怒声。
「妹は、無体を働かれて妊娠してしまったというのに……自分が悪いと言って、責任を取って彼と結婚すると言っていました」
「そんなの、許すはずないでしょうっ!!」
「ええ、はい。わかっておりますわ。その、わたくしも取り乱してしまって、彼を妹と引き離さなくては、と。彼を家に帰してしまいましたの。妹は、妊婦とのことなので、部屋で休ませておりますわ」
「そう、か……すまなかった。お前一人では手に余る出来事だっただろう。向こうの家とは、わたしが確りと話を付けて来よう」
「あなた、あの子はどうするのです? お腹の……子は?」
「……」
険しい顔で黙ってしまったお父様。
「妹は、身体が弱いですから。出産に耐えられるかは……それに、あの子は優しい子ですもの。お腹の子の父親である彼のことを庇おうとするはず。でも、わたくしは……それが
だって、あの子にまともな子育てができるとは、全く思いませんもの。
「……お前の気持ちはわかった」
「あの子は、今回のことで心を病んでしまうかもしれません。彼のことを忘れさせるためにも、空気のいいところで療養させた方がいいと思いますの。お母様、どうかあの子のことを、側で支えて頂けないでしょうか?」
「わかりました。母に任せなさい」
「ありがとうございます。お母様が一緒なら、安心ですわ」
と、こうして彼の家から慰謝料を
「なん、でっ、お姉様……こんな、酷いこと……」
療養先へ向かう前、泣き腫らした恨みがましい顔で妹が言いました。
「ごめんなさい……わたくしが、あの男の本性に気付くのが遅れてしまったばかりに……あなたには、酷くつらい思いをさせてしまったわね」
と、妹を抱き締めました。
「い、やっ!! 放っ、してっ!」
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