わたくし、愛する二人を引き裂く悪女なのですって。ならば、全力で務めさせて頂きますわ!
月白ヤトヒコ
わたくしは、愛する二人を引き裂く悪女を……及ばずながら務めさせて頂きますわ!
※一部、センシティブな内容が含まれます。
――――――――
わたくしには、一つ年下の病弱な妹が居ります。
とは言っても、妹が病弱だったのは子供の頃までだと思います。だって、十代も後半に差し掛かった今は子供の頃程頻繁に高熱を出すこともないのですもの。
ですが、妹は……なんと形容したら宜しいでしょうか? 病弱、身体が弱いと言えば、淑女教育や高等教育から逃げられる、と。そう思ってしまったらしく、「今日は気分が悪くて……」と言って家庭教師の授業をよく仮病でサボっていたのです。
お父様もお母様も、病弱だった妹には甘く、仮病を使ってサボっているとは気付いていないようです。そして、使用人達も、妹に甘い両親を見ているせいか、わたくしの方よりも妹のことを優先します。
サボりにも手を貸しているみたいですし。将来困るのはあの子の方なんですけどね?
ちなみに、わたくしは後継ぎとして厳しく教育が施されていますが。まあ、俗に言う『病弱な妹ばかりを可愛がる家族』というやつですわね。
娯楽本でこういう、虐げられる姉という本を読みましたの! 興味深かったですわぁ。
一応、最低限の世話はされていますので、物語のように酷く蔑ろにされているワケではありませんわ。わたくしも、あまり人に構われるのが好きではないというところがあるので、屋敷中の人が妹を構い倒すのは、ある種需要と供給の一致と言えるのではないかしら?
とは言え、妹には仮病とサボり癖の他にも困った癖もあるのですけれど。
わたくしのモノを欲しがるという悪癖。これは頂けませんわ。あら~、これも物語の欲しがり妹というやつですわね? うふふ。
わたくしは少々困った妹と、そんな妹を甘やかす家族や使用人達に囲まれて暮らしていたのですけど――――
ある日のこと。
「すまないが、君とは結婚できない。俺は、彼女を愛してしまったんだ」
「ごめんなさい、お姉様。わたくしがいけないの……」
あらあら、こんな光景。物語でありましたわねぇ?
わたくしの対面に、妹とわたくしの婚約者とが睦まじく寄り添って座っていますわ。
「いや、彼女は悪くない。というか、悪いというなら君の方ではないのか? 病弱で身体の弱い彼女に、『仮病を使うのはやめろ』などと心無い言葉を浴びせていたというじゃないか。俺は、そんな彼女を慰めるうちに……」
「いいえ、わたくしがいけないのです。お姉様は、わたくしを我が家に相応しい淑女にしようと厳しく接していただけなの。わたくしが、わたくしの身体が弱いばっかりに……お姉様の求める水準に届かなかっただけなの」
妹を庇い、わたくしを非難する婚約者の彼。そして、そんな彼に甘えるように涙目で自分を卑下して見せ、わたくしを貶めようとする妹。
「ああ、君はなんて清い心をしているんだ。病弱な妹に嫉妬して、教育を盾に自分の嫉妬をぶつけて来る醜い姉を庇うだなんて!」
あら~、これまた物語……いえ、自分に酔っている演劇役者のようなセリフですわぁ。
差し詰め、彼らの中ではわたくしは愛する二人を引き裂く悪役令嬢……いえ、悪女と言ったところでしょうか?
「彼女のお腹には、俺の子がいる。予定通り、彼女と結婚して俺がこの家に婿入りする」
あらあら、なんだかとんでもないことを暴露されましたわぁ!
「君には悪いと思うが、これ以上俺と彼女の邪魔はしないでくれ」
悪い、とは言いつつも、全くそう思っていなさそうに。むしろ、忌々しいという顔で婚約者がわたくしを睨み付けます。
当主教育を受けていたのはわたくし。
妹はよく仮病を使って授業をサボっていたので、通常の淑女教育すらも覚束ない。
更に言えば、彼は後継ぎではないため当主補佐の教育しか受けていません。それも、彼の家でですし。我が領地のことは婿入りしてから本格的な教育をするつもりでしたので、中途半端ですし……
ということは、わたくしを追い出すと領民が割を食うことになって、困りますわねぇ……実はわたくし、偶に父の代わりとして既に領主として采配を振るっているのですけど?
そんなわたくしを追い出し、未熟な二人が領主夫妻となる? 普通に無理でしょう。没落する未来しか見えませんわね。
ということで、様々な事情を鑑みて――――
わたくしは、愛する二人を引き裂く悪女を……及ばずながら務めさせて頂きますわ!
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