第5話 ベッド脇にいる三大ヒロイン
如何に意識がぼやけていようとも今日(?)話したばかりの美少女の顔を、きれいさっぱり忘れることは難しいと思う。
確かに俺のベットの脇にいる、三人の美少女。
生徒会のヒロイン――桐生美琴。
図書室のヒロイン――三浦花鈴。
部活動のヒロイン――大橋滝羽。
うん、これはやっぱり夢だ。
だけど、夢なのにめちゃくちゃ眠い。だからもうひと眠り……。
◆ ◆ ◆ ◆
結論から言うと、どうやら俺は助かったらしい。
たまたまあの事件を目撃していた三浦さんが病院に連絡を取り、たまたまあの近くにいた大橋さんが俺をかついで病院に運び込んだらしい。
この間なんと、五分も経っていないとか何とか。
要するに運がとてつもなく良かった。
で、だ……。
俺は助かった。色々と身体に不自由はあれど、今生きている。
ただ、その不自由の部分に五感の異常はないと言われた。
つまり、手術から一瞬目が覚めた時にベッドの脇で泣いていた三大ヒロインは嘘ではなかったということになる。術後せん妄である可能性はあるけど、それもない。
何故なら、今、俺のベッドの横でリンゴを剥いているのが、他でもない桐生美琴だからだ。ようやく容体が安定してきた俺の病室に桐生さんが朝からずっといる。
「いや、あの、どうして桐生さんがここに……」
「理由は三人そろってから説明するね。それよりもはい、あーん」
右手が包帯グルグル巻きで使い物にならない俺に変わって、リンゴを食べさせてくれようとしている。
この病室には他の人もいるのに、あーんをお構いなしにやってくる。
あの三大ヒロインの桐生美琴が。
は、恥ずかしい……。
あーんなんてやってもらったのは両親以来かもしれない。
でも右手が使えないのだから、仕方がない。
これは仕方がないことなんだ……! と、意を決してリンゴをぱくり。
「ん!」
これ俺が好きなやつ!
甘さの中にしっかりとした酸味があって、シャキシャキとした触感が好きなのだ。
「どうかな? 白石くんが好きかなと思って選んで来たんだけど」
「美味しいです。これ、俺が一番好きなタイプのリンゴです」
「ふふっ、良かった。こういうところは変わらないんだね」
なにこの……昔からあなたのことを知ってますよみたいな。
別に嫌悪感があるわけじゃないけど、不思議な感覚だ。
本当は俺が覚えていないだけで、保育園とか小学校などが一緒だったりするのだろうか。でも、一緒だったくらいでは分からないようなことのような。
「それにしても、不思議ですね」
一番不思議なのは桐生さんがここで俺の看病をしてることだと思うんだけど。
なんてツッコもうと思ったが、悪いと思ったので止めた。
「何がですか?」
「私たち、白石君の容体が安定するまで毎日お見舞いに来てたの。交代で」
「……らしいですね」
他の三大ヒロインである三浦さんと大橋さんと一日ごとに交代しながら、見舞いにやってきていた。俺は看護師さんからそういう風に聞いている。
やっぱり訳が分からねえ~。
「それでなんだけど、一回も白石くんのご家族に会ってないんだよね」
「……まあ、そういうこともありますよ」
「そうかなあ~」
とぼけたように振舞う桐生さん。
だけど、何となく察していてもおかしくはないだろう。
生徒会を務められるような能力のある少女だ、そのくらいの頭の良さはあるはず。
「はい、リンゴ、もう一口」
「あ、ありがとうございます」
話の流れを変えるように俺の口にリンゴが押し付けられた。
ここ数日まとも食べてなかったから、うまい。
それに一人暮らしを始めてから、果物なんて摂取してなかったから余計においしく感じてしまう。
シャリシャリとリンゴを食べていると足音が近づいてくるのが分かった。
「プレイボーイじゃのう……」
同じ病室にいる爺さんがそんなことを呟いたのが聞こえてきた。
何もプレイしてねえよ!
だけど、周りから見たらそうとしか見えないんだろうな……。
「こんにちは。白石くん」「お久しぶりです。白石さん」
やってきてベッド横に用意された椅子に座る二人の女子。
三浦花鈴と大橋滝羽だ。二人とも学校から直に来たのか、制服姿だった。
これで校内三大ヒロインが揃ったわけだが。
「それじゃあ、白石君が聞きたいことに答えようか。何から聞きたい?」
三人が俺のことを見つめている。
勿論聞きたいことなんていっぱいあるけど、一番は――。
「どうして三人は俺のことをこんなに心配してくれるんですか?」
「やっぱりそこだよね。事前の打ち合わせ通りの答えで良いよね、二人とも」
桐生さんが答えてくれようとしてくれている。
残りの二人は黙ったまま、桐生さんの言葉に頷いた。
「実は私たち三人、君の前世の嫁だったんだよね……覚えていますか旦那さま?」
し、知らね~~~!! 覚えてねえ~~~!!
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