第48話 抗う声
俺は教室の真ん中に立たされていた。
机と椅子が勝手に動いて円を作り、クラス全員の視線が突き刺さる。
泣き笑いの顔は天井からも壁からも覗き込み、笑い声と泣き声が混ざって耳を潰す。
「……っ」
膝が震える。
でも、笑われてるのは俺じゃない。
笑う仕組みが再現されているだけだ。
◇
「ははっ……見ろよ……」
クラスの男子が顔を引きつらせながら笑った。
「アイツ、真ん中にされてんぞ……!」
別の声も重なる。
「そうだ……俺たちじゃなくて……アイツが……」
恐怖が一周して、狂気の笑いに変わっていく。
自分を守るために、俺を“オチ”にして必死に笑おうとしていた。
◇
梓が悲鳴を上げる。
「やめて!! 悠真は何もしてない!!」
里奈は涙で声を張り上げる。
「お願いだから笑わないで……!」
結衣だけが冷静に笑っていた。
「ふふ……でもこれが人間なんだよね」
◇
背中の冷気が強まる。
静香が耳元で囁く。
【みてる】
【ためしてる】
心臓が凍りつく。
これは俺の試練。
“笑われる側に立たされたとき、俺はどうするのか”。
◇
「……いい加減にしろよ」
声が震えながらも、喉から絞り出す。
「俺は、笑われてるのが怖くないわけじゃない。
でもな——誰かを笑いものにする輪の一部になるくらいなら、笑われる方がマシだ!」
黒板がビリッと音を立てる。
泣き笑いの声が一瞬だけ止まった。
◇
「お前らも聞けよ!」
俺は叫ぶ。
「怖いからって、誰かを真ん中にして笑って逃げても、結局そいつが“ほんとうに笑ってたやつ”になるんだろ!?
だったら俺は絶対に笑わない! 誰かをオチにもしない!
ここで終わらせる!」
◇
梓と里奈が涙ながらに頷く。
結衣はクスクス笑って拍手した。
「ふふ……いいね。今までで一番面白い」
……おい。褒め方間違ってんぞ。命懸けの漫談ちゃうねん。
◇
黒板に赤い文字が刻まれる。
【ゆうま は わらわない】
泣き笑いの顔が揺れ、何体かが霧のように消えた。
背中の静香が囁く。
【ほんとうに ためしてる】
まだ終わりじゃない。
でも確かに、笑いの輪に亀裂が入った。
——ここからが本当の勝負だ。
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