第48話 抗う声

俺は教室の真ん中に立たされていた。

机と椅子が勝手に動いて円を作り、クラス全員の視線が突き刺さる。

泣き笑いの顔は天井からも壁からも覗き込み、笑い声と泣き声が混ざって耳を潰す。


「……っ」

膝が震える。

でも、笑われてるのは俺じゃない。

笑う仕組みが再現されているだけだ。



「ははっ……見ろよ……」

クラスの男子が顔を引きつらせながら笑った。

「アイツ、真ん中にされてんぞ……!」


別の声も重なる。

「そうだ……俺たちじゃなくて……アイツが……」


恐怖が一周して、狂気の笑いに変わっていく。

自分を守るために、俺を“オチ”にして必死に笑おうとしていた。



梓が悲鳴を上げる。

「やめて!! 悠真は何もしてない!!」

里奈は涙で声を張り上げる。

「お願いだから笑わないで……!」


結衣だけが冷静に笑っていた。

「ふふ……でもこれが人間なんだよね」



背中の冷気が強まる。

静香が耳元で囁く。


【みてる】

【ためしてる】


心臓が凍りつく。

これは俺の試練。

“笑われる側に立たされたとき、俺はどうするのか”。



「……いい加減にしろよ」

声が震えながらも、喉から絞り出す。

「俺は、笑われてるのが怖くないわけじゃない。

でもな——誰かを笑いものにする輪の一部になるくらいなら、笑われる方がマシだ!」


黒板がビリッと音を立てる。

泣き笑いの声が一瞬だけ止まった。



「お前らも聞けよ!」

俺は叫ぶ。

「怖いからって、誰かを真ん中にして笑って逃げても、結局そいつが“ほんとうに笑ってたやつ”になるんだろ!?

だったら俺は絶対に笑わない! 誰かをオチにもしない!

ここで終わらせる!」



梓と里奈が涙ながらに頷く。

結衣はクスクス笑って拍手した。

「ふふ……いいね。今までで一番面白い」


……おい。褒め方間違ってんぞ。命懸けの漫談ちゃうねん。



黒板に赤い文字が刻まれる。


【ゆうま は わらわない】


泣き笑いの顔が揺れ、何体かが霧のように消えた。

背中の静香が囁く。


【ほんとうに ためしてる】


まだ終わりじゃない。

でも確かに、笑いの輪に亀裂が入った。


——ここからが本当の勝負だ。

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