第47話 再演

黒板の赤文字が一斉に消え、代わりに白い粉が舞い上がった。

次の瞬間、机や椅子が勝手に動き出し、教室の真ん中に“空白の円”が作られる。


【はじめから】


黒板に浮かんだその一文で、背筋が冷えた。


「……まさか」

梓が蒼白になる。

「十年前の……再現……?」


里奈は両手を口に当て、震えながら涙をこぼす。

「……また、誰かを……」


結衣は楽しそうににやりと笑った。

「ふふ……“実験”ってことだね」


……いやいやいや。実験ってサラッと言うな。これ完全にモルモット扱いだろ。



泣き笑いの顔が、机の下や天井から覗き込む。

耳元で重なり合う囁き。


【だれを わらう?】

【だれを なかす?】


クラス全員が混乱して、ざわめき始める。

「やめろよ……!」「な、なんで俺たちが……!」

「いや、アイツなら……」「ふざけんな! お前だろ!」


恐怖と混乱が一周回って、嘲りの笑いに変わる。

半狂乱の生徒たちが、互いに指を差し合い、必死に誰かを“真ん中”に立たせようとする。



梓が泣き叫ぶ。

「ダメ! もう誰も……!」

里奈は耳を塞いでしゃがみ込む。

「また……繰り返されちゃう……!」


結衣だけが冷静に呟く。

「ふふ……これが“仕組み”。笑うか、笑われるか」



俺は拳を握った。

背中の静香が耳元で囁く。


【みてろ】

【ためせ】


「……試すってそういうことかよ」

俺は奥歯を噛みしめた。

「“人間はまた同じことをするか”。

“笑う仕組み”が繰り返されるかどうか……」


泣き笑いの声が教室を覆い、黒板に大文字が刻まれる。


【ほんとうに わらってたのは】



クラスメイトたちが一斉にこちらを見る。

ざわめきが笑いに変わり始める。

「アイツだろ……」

「そうだよな……」

「こいつが真ん中だ……!」


全員の指が——俺を差していた。



「……おい待てコラ!」

俺は思わず叫んだ。

「なんで毎回俺が真ん中!?俺ただのツッコミ役だぞ!?

ボケた覚えもねぇのにオチ担当にされるとかブラック芸人かよ!」


泣き笑いの顔が一斉に歪み、笑い声が爆音になって押し寄せる。


背中の静香が、泣きながら笑いながら囁いた。


【みせて ゆうま】


——試練は、俺自身を“真ん中”に立たせることから始まった。

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