第47話 再演
黒板の赤文字が一斉に消え、代わりに白い粉が舞い上がった。
次の瞬間、机や椅子が勝手に動き出し、教室の真ん中に“空白の円”が作られる。
【はじめから】
黒板に浮かんだその一文で、背筋が冷えた。
「……まさか」
梓が蒼白になる。
「十年前の……再現……?」
里奈は両手を口に当て、震えながら涙をこぼす。
「……また、誰かを……」
結衣は楽しそうににやりと笑った。
「ふふ……“実験”ってことだね」
……いやいやいや。実験ってサラッと言うな。これ完全にモルモット扱いだろ。
◇
泣き笑いの顔が、机の下や天井から覗き込む。
耳元で重なり合う囁き。
【だれを わらう?】
【だれを なかす?】
クラス全員が混乱して、ざわめき始める。
「やめろよ……!」「な、なんで俺たちが……!」
「いや、アイツなら……」「ふざけんな! お前だろ!」
恐怖と混乱が一周回って、嘲りの笑いに変わる。
半狂乱の生徒たちが、互いに指を差し合い、必死に誰かを“真ん中”に立たせようとする。
◇
梓が泣き叫ぶ。
「ダメ! もう誰も……!」
里奈は耳を塞いでしゃがみ込む。
「また……繰り返されちゃう……!」
結衣だけが冷静に呟く。
「ふふ……これが“仕組み”。笑うか、笑われるか」
◇
俺は拳を握った。
背中の静香が耳元で囁く。
【みてろ】
【ためせ】
「……試すってそういうことかよ」
俺は奥歯を噛みしめた。
「“人間はまた同じことをするか”。
“笑う仕組み”が繰り返されるかどうか……」
泣き笑いの声が教室を覆い、黒板に大文字が刻まれる。
【ほんとうに わらってたのは】
◇
クラスメイトたちが一斉にこちらを見る。
ざわめきが笑いに変わり始める。
「アイツだろ……」
「そうだよな……」
「こいつが真ん中だ……!」
全員の指が——俺を差していた。
◇
「……おい待てコラ!」
俺は思わず叫んだ。
「なんで毎回俺が真ん中!?俺ただのツッコミ役だぞ!?
ボケた覚えもねぇのにオチ担当にされるとかブラック芸人かよ!」
泣き笑いの顔が一斉に歪み、笑い声が爆音になって押し寄せる。
背中の静香が、泣きながら笑いながら囁いた。
【みせて ゆうま】
——試練は、俺自身を“真ん中”に立たせることから始まった。
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