第4話 クラスパニックと女子達の青ざめ芸

【みないで】

【でも みつけて】


黒板に残された二行を前に、教室はカオスだった。


「お、おばけ!?」「え、誰が書いたの!?」「勝手に動いたよな今!?」

みんな口々に叫ぶ。

冷静なやつは一人もいない。

唯一冷静なのは先生──と言いたいところだが、先生は顔を真っ赤にして「イタズラだ!」と繰り返しているだけだった。

いや先生、それ、無理あるって。


「ひっ……ひっく……」

里奈は机に突っ伏して泣き出すし、

梓は顔面蒼白で「違う、違うの……!」とブツブツつぶやき出すし、

結衣は──笑ってた。

なぜか笑ってた。しかも震える声で。

「……はは、あはは……うける……」

怖すぎる。


俺は思った。

──なにこれ、もはや“女子達青ざめ芸”大会じゃん。


「お前、落ち着いてんな」

友人の太田が俺に小声で言った。

「いや、俺だって心臓バクバクだし!?」

「顔、めっちゃ冷静に見えるぞ」

「……マジか。じゃあもうそれでいいや」


俺は内心ガタガタ震えてた。

でも周囲からは冷静に見えるらしい。

なら──利用するしかない。


「落ち着けよ!」

立ち上がって叫んでみた。

「イタズラか何かだ! ……たぶん!」


教室の視線が一斉に俺に集まる。

やばい。なんかリーダーっぽくなってる。

いや俺、そんなキャラじゃないから。


そのとき、黒板のチョークが、またカタリと動いた。

全員が悲鳴を上げる。

俺も内心叫んだ。


でも書かれた文字は、意外にも一言だけ。


【ごめん】


一瞬、シーンとなる。


「……え?」

梓が小さく呟いた。

「なにそれ……なんで……」

彼女の顔は蒼白を通り越して、今にも泣き出しそうだった。


──いやいやいや。

謝るのはお前らじゃなくて、向こうの方から来るんかい!?


俺の頭の中で、ツッコミが止まらなかった。


「ご、ごめんって……あれ、誰に言ってんの……?」

里奈が震える声で言う。

「さ、さぁ……」

結衣は笑いながらも目に涙をためている。

「だって、あれ……私たちが昔──」

「黙れ!」梓が結衣の言葉を遮った。

「今そんなこと言うな……!」


教室の空気が重く沈む。

でも俺は、なぜか冷静に思った。


──結局、誰が誰に謝ってるのかもわからん。

でも、今さら謝られても、手遅れなんだよな。


背後にいる“それ”が、黒板の文字を見て笑った気がした。

いや気のせいかもしれないけど。

でも、俺の耳に、確かに囁きが届いた。


【まだ おわらない】


……うん、知ってた。

ホラー映画でここで終わるわけないもんな。

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