私と蓮さん
『美男美女が焼きそば屋やってるらしいよ』
『めっちゃイケメンが焼きそば作ってくれるって』
『お釣り渡すとき女の子に触れたんだけど笑顔ヤバすぎて飛ぶ』
「ありがとうございましたー!」
暑い中一生懸命焼きそばをパックに詰める蓮さんの隣で、お客さんに焼きそばを渡す私。
一体なぜこんなことになったのか、回っていない脳をフル回転させる。
「すげぇ繁盛してる!?」
戻って来たお店の人は驚きながら蓮さんと場所を変わった。
「もう数分したら他の奴来るから、二人で祭り行ってきな」
お店の人のご厚意を今は憎たらしく思える。
「蓮さん、誰と来てたんですか?」
「一人」
「え、嘘でしょ?祭りですよ?」
お客様に焼きそばを渡し終えて一息ついた。
「妹が夏祭り楽しみにしてたけど熱出して、代わりに綿菓子を買いに来た」
スーパーのお菓子コーナーにあるものではなくわざわざ祭りに来て買おうとしていたことに驚いた。
「優しいとこもあるんですね。なら買って帰ってあげた方が良いんじゃないですか?」
スマホを見て誰かと連絡を取っている蓮さんから視線を外すとお店の人に声をかけられた。
「ありがとう。予定時間よりも長く手伝ってくれたから受け取って。これであの子と一緒に好きなもん食べてきな」
札束を握らされた私は返そうとしたが、仕事を始めてしまった。
「いいんじゃねぇの、もらっといて」
振り返ると蓮さんが立っており、そのお金を蓮さんに渡した。
「何でだよ」
「私は元々ここでスタッフやること決まってたので。急遽手伝ってくれた蓮さんが貰うべきかと」
本当は蓮さんと祭りに行きたくないだけだが、オブラートに包んだ。
「ほら、妹に綿菓子買うんですよね?」
「これはのんちゃんと俺が貰うべき報酬だ。妹の分は俺の金で出すから気にするな」
渡そうとしたお金は私の手に戻って来た。
これ以上無理に断ることも出来ずに、私は蓮さんと一緒に歩き始めた。
「というか、蓮さんって地元心愛ちゃんと同じなんですね」
地元の小さな祭りと言っても人が多くて人気のある祭りだと分かる。
下駄を履いていることもあり、人に流されてしまいそうだった。
「あぁ、中学一緒。けどそこまで関わりない。向こうの性格、やばいのは知ってるし」
蓮さんがそれ言うの?と思いながら必死に歩いた。
「…のんちゃんは地元じゃないのに何で?」
私のペースに合わせてゆっくりと歩いてくれる蓮さんに少しだけ感謝をした。
「心愛ちゃんにスタッフ足りないから呼ばれました。レオンに夏祭りの思い出、作ってあげたいってのもあって参加しました!」
私の話を聞いて納得したようで、嫌そうな顔をした。
「そんなにあいつが好きなんだな」
ただでさえ暑いのに、さらに体温が上がる。
これは夏のせいだと信じたい。
「言葉も環境も何も分かんなくて、独りぼっちだった私を救ってくれた大切な人です。誰も頼れない場所で手を差し伸べられたら…誰でも惚れるでしょ」
「確かになぁ。…ずるいな」
ゆっくりと私の手に触れた蓮さんは耳が少し赤かった。
「何食いたい?」
蓮さんと繋いだ手に汗が溜まっていくのが分かる。
「からあげ」
「可愛くねぇ」
人から向けられる好意に向き合っていなかった私が恥を知った瞬間だった。
告白をされてから距離を取っていたが、蓮さんの気持ちを考えられていなかったと申し訳なく思えてきた。
から揚げの列に並んでいると、蓮さんは繋いでいた手を離した。
「人混みだとのんちゃん小さいからいなくなるだろ。迷子は勘弁だから」
「…みんなの前でもそのままでいればいいのに。その性格案外好きですよ」
蓮さんは私に対する接し方と、周りに対する接し方が違う。
頼れるリーダー的ポジションで、王子様のような存在。
私には結構強い言葉を浴びせるが、他の人にはしない。
「無理だろ。俺、王子だし」
「そういうとこです」
もっと自然体でいれば蓮さんを本当に好きになってくれる人がたくさんいるはずだ。
「え、蓮じゃん!その子誰?遊んでる子?」
蓮さんの地元の知り合いなのだろうか。
少し派手な見た目をした人達が数人集まって来た。
「今度俺にも遊ばせてよ」
「めっちゃ可愛い」
触れようと伸びてくる手に驚いたが、蓮さんが庇ってくれた。
「悪い。この子マジなんだわ」
今までに見たこともないような顔で睨みつけるとその人たちは驚いて去って行った。
さっき頂いたお金を使ってからあげを買うと蓮さんはまた、私の手を掴んだ。
「びびらせたな」
蓮さんがあんなに怒った顔をしたのは初めて見た。
「地元では割と悪ガキで…あいつらと女で遊んでたんだ。悪かったな」
一気に空気がどんよりしたので持っていたからあげを蓮さんの口の前に持っていった。
「昔の蓮さんでしょ。さっきは助けてくれました。それが今の蓮さんです」
何となく遊び人だということくらい分かる。
それでもさっきは助けてくれた。
「はぁぁぁ…そういうとこだよ。つか留学生は?良かったのか?」
今頃どうしているのかと考えながら私達はボールすくいの場所まで歩いた。
少し前に自由行動にしたと言われ『どこにいる?』と連絡しておいた。
「好きな人をあの女といさせるのんちゃんの気が知れない」
頭を抱える蓮さんと歩きながら祭りの中心から離れていった。
「楽しめてるかな?」
「まぁそれなりには楽しんでるだろ」
文句を言いながらも一緒に探してくれる蓮さん。
「あ、いた!レオン…」
その名を呼ぶとレオンは振り返った。
しかし私は見てしまった。
「ノア…!これは…」
レオンと心愛ちゃんが抱きしめ合っているのを。
その瞬間、私の頭は真っ白になった。
「さすがにないわ。のんちゃんがどんな気持ちか、考えた方が良いぞ」
夏の素敵な思い出になるはずが、私はどうやら失敗したようだ。
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