好きな人には意地悪を
「レオン、ありがとう」
手を引いて私の前を歩くレオンに声をかけた。
しかし返事は何も返ってこなかった。
「…レオン?」
飲み屋街を出て静かな場所に来た私達に沈黙が続いた。
「あの人はボーイフレンドですか?」
風に乗って聞こえてくる言葉に首を横に振った。
「…僕はノアがアメリカにいた時からずっと好きです。あの人に触れられているのを見たら悲しいです」
突然のことに私は言葉を失ってしまった。
「困らせたくないです。けど他の人を好きになって欲しくないです」
真っ直ぐ純粋な言葉に私は戸惑ってしまった。
私を気にかけてくれたレオンとの三年はとても濃いものだった。
しかし当時はあの環境で生きていくのに必死でレオンの気持ちには気付かないまま帰ってきてしまった。
「今度時間があるとき、デートしてくれませんか?」
近くの公園の明かりだけが頼りなこの空間で、レオンの顔がはっきりと見えない。
私の手を取り跪くその姿はまるでプロポーズのようだった。
「僕はノアが好きです。ノアはどうですか?」
風で木が揺れる。
葉と葉が触れる音が響く中、私は何を言葉にすればよいのだろう。
「わ、私は…」
繋がれたレオンの手から優しさが伝わる。
私の言葉を待ってくれている。
「レオン、あのね、私もレオンを大切に思ってる。だからね…少しだけ時間をくれない?考えたいの、真剣に」
真剣なレオンの言葉には真剣に答えなければけない。
「ありがとうございます。僕のことを考えてくれる、嬉しいです」
自分の体が熱くなっているのを感じる。
まだ気温の高くないこの時期に体温が上がるのはレオンのせいだ。
「聞いても良いですか?」
「何?」
手を繋ぎながら最寄り駅を降りた。
「あの人はフレンドですか?」
なかなか難しい質問に悩んでいると、レオンは何も言わない。
昔から私が何かを伝えようと考えているときは私を待っていてくれる。
「先輩なの。友達の友達的な。だから無理に距離を置くことは出来ないんだよね。あと一年であの人、卒業するし。私も学校に行く頻度少なくなってきたし。もう少しの辛抱かな」
そして私の話を最後まで聞いてくれる。
とても優しい人。
「分かりました。もしまた何かされたら助けます。言ってください」
「ありがとう。頼りになるね」
昔は小さかった手がこんなにも大きくなって私を助けてくれた。
何年たってもその優しさは変わらないのだろう。
「頼りになるはどういう意味ですか?」
申し訳なさそうに聞く姿を見て昔の自分を思い出す。
「かっこいいって意味かな!ヒーローみたいって感じ」
分からない単語をレオンに聞いて一生懸命簡単な言葉で説明してくれていた。
「今度は私がレオンにいっぱい教えてあげる。だからたくさん聞いて。あの時のレオンみたいに今度は私が助けたいの」
慣れない環境で精一杯だった私を支えてくれたレオンのように私も手助けがしてあげたい。
「ありがとうございます。ところでノアはなぜ日本に帰ったですか?」
普段は何とも思わない駅からの道がレオンのおかげでとても楽しいと思えた。
「元々アメリカに行った理由は知ってるでしょ?けど私は日本の高校に行きたかったの。制服を着てクレープを食べてってね。高校生になる前にお母さんにどっちの高校を受験するか聞かれて悩んだけど日本にしたんだ」
将来日本で生きていくつもりの私にとってこのままアメリカにいるよりも日本に帰る方が良いと判断した。
「日本の高校はクールな制服があるです。写真見たいです」
興味深々のレオンに高校時代の写真を見せた。
「これは体育祭の写真だから制服じゃないよ。体育の時はこの服に着替えるの」
私達が通っていた中学では私服が当たり前だった。
みんなバラバラな服装をして、自分の個性を尊重する見た目が普通だった。
日本の高校は見た目に関する校則があり、みんなマネキンのようだと感じた。
しかし制服への憧れは強く、日本の高校に通ってよかったと思っている。
「ノアはとても美しい黒い髪です」
そう言って私の髪の毛を撫でた。
「レオンの金髪も憧れる。目もすごくきれいだよね」
ずっと見つめているとその目に吸い込まれそうなくらい美しい瞳をしている。
「…ノア、近いです」
少し照れて私から距離を取ったレオン。
私から目を逸らすレオンに思わず声を上げた。
「レオンの方がハグしてきたり、手を繋いだり。距離感バグってるじゃん!」
あまり理解できなかったのかきょとんとするレオン。
「私にハグしたりしてそっちの方が近いじゃん。私は見つめただけで触れてないよ?」
「僕から近づくはOKだけどノアが近づくと…恥ずかしいです」
意味の分からない答えに目が点になってしまった。
「レオンはこの二日間で散々私を振り回してるの。…私だけ恥ずかしがるのは違うから、レオンに意地悪してやる!」
そう言って私より大きな体を抱きしめた。
「ノア、それ以上はストップです」
顔を見ると真っ赤に染まっているのが見えた。
「え?レオンそんなに照れてんの?」
女性に耐性があると思っていたので正直意外だった。
「誰でも好きな人に触れられたらこうなります。離せなくなりますけどいいですか?」
絡められた右手はレオンの口元に連れていかれ、軽く唇に触れた。
「す、ストップー!」
手の甲にレオンの唇が触れた感覚が消えない。
家までの帰り道、レオンからの意地悪が止むことは無かった。
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