第21話「六人でもできるのかな」
「……おもてえ」
「頑張って」
息を切らして俺たちは階段を下る。
俺と猛に、涼介を加えた三人で、巨人の修也の身体を引きずりながら二階の教室を目指していた。
「よいしょ、よいしょ」
女子の三人には同じく気絶している美藍の身体を運んでもらった。
彼は案外小柄だったため、女子でも分担して教室の前まで運ぶことができた。
「つ、疲れた……」
額の汗を拭いながら、時刻を確認する。午後十一時五十五分。あと少しで日付が変わろうとしている。
これ以上遅くなると、本格的にみんなが怒られてしまう。
紫鏡に教室の扉を開けてもらうと、俺たちは急いで修也を連れて室内に入った。
「よし……さあ、すぐに儀式をしよう! 紫鏡、鏡をここに出してくれ」
「わかりました、新垣君」
気絶者を手から離すとすぐに猛が机を移動させ始めた。俺もそれに合わせて机が邪魔にならないように動かし、できるだけ早く儀式が行えるように立ち回った。
「……儀式、六人でもできるのかな」
端の方で用意が完了するのを待っていた小恋が小さく呟いた。
「それはきっと大丈夫。先生から直接『願いを叶えるマリーさん』誕生秘話を聞いてる私を信用して。人数は七人って指定がありますけど、願いを聞くマリーさん役以外は案外適当でも問題ないみたいなんですよ」
「え、そうなんだ」
「はい。終わるときは『これで終わり』と言って内側の二人が外側にいる参加者の肩を叩くことで終わるらしいです」
紫鏡が言うには、その場にいる人間が七人いればよく、誰かが願い事を言わずに終了してもいいとのこと。
その際に、立木先生から聞いたことがないルールの補足をしていたが、一体彼女はどこまで知っているのだろうか。
紫鏡が持参した手鏡を机の上にセットし、椅子を二脚用意したところで、俺はあることに気が付いた。
「儀式、どうしようか。俺も合わせて八人いるんだけど……」
「え! ……あー、そうねー」
一人ずつ指を差して桃が確認した通り、俺たちは先ほど気絶した美藍も連れてきたため、一人多い。
そうなると、七人で儀式を行うには誰か一人に抜けてもらう必要がある。
「寝ているどっちかを出せばいいんじゃないか?」
猛が誰もが浮かんだ答えを口にした。
たしかに、この案は悪くない。
「俺は反対。こんなおかしな学校で意識のない人を放置するのは危険すぎる。美藍だって、放置したらどうなるか分からないのは怖い。監視の意味もあるから、別の人にしてほしい」
俺がそう言うと、残された四人は誰が抜けるのか数分かけて話し合いを行った。
話し合いを終え、四人が一斉に立ち上がる。その中から、手を上げて桃がこちらに向かって歩いてきた。
「桃が外で待機しておくねー! 絶対のぞき見しないよう帰るからさー! ……こーこー、お願いよ」
最後に小恋の手を握り、桃は教室を後にした。
そして、教室に残された七人で「願いを叶えるマリーさん」の儀式が始まる。
「順番はどうする?」
「私たちは番号順でやったから、今回もそれでやりましょう」
紫鏡の提案に迷いなく賛成する一行。ただ、これには少しばかり不安があった。
――マリーさん、マリーさん。どうか、恐怖で満たされる日々が訪れますように。
それが、前回の彼女の願いだった。
……だけど、もし。俺の考察が当たっているのならば、紫鏡はもうあんな願い事をしないだろう。
「番号順で行こう。最初は……猛だね」
「おう、任せろ」
「真偽君、ちょっと待って」
再び、小恋が俺の服を掴んで言った。
「二人の耳は塞がないでいいのかな……? 儀式の途中で起きちゃったら、失敗しちゃわない?」
「ああ、それだったら……」
涼介はおもむろに立木先生の机の引き出しを開けて物色し始めた。
「……あった」
何かを取り出した涼介は、そのまま美藍と修也の元まで向かう。彼が取り出したのは、四つの耳栓と二人分のアイマスクだった。
「いや、ほら。上原沙織っていつもイヤホン付けてただろ? あれ、昔は耳栓を使ってたんだよ。だから毎年あいつのクラスの担任の机には必ず耳栓が入ってんだ。アイマスクは……ま、教師なら常備するよな」
「涼介……」
何はともあれ、これで完璧な準備ができた。後は儀式を行うだけだ。
前回の記憶が、まだ始まっていないはずなのに重なって見える。
メンバーはほとんど変わってしまったが、今回こそは成功させる。そして、この呪いを解くんだ。
俺は真ん中の席で、静かにそのときが来るのを待った。
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