第19話 都市が消滅しました

  ◇◆◇


「良かったの? 逃がしちゃって」

「まあ、あいつらに固執しすぎて、本来の仕事が疎かになっても困るからな」

 ルシフルたちとの戦闘を終えて。ウルフとダークはそんなことを話していた。

「それに、だ……おいでなすったぜ」

 ウルフが都市の中心に目を向けると、大通りの向こうから大勢の冒険者が姿を見せた。

「あいつらを適当に片して、都市を壊す。それで第一目標はクリアだ」

「そうだね」

 そうして、更なる惨劇が始まるのだった。



「こんなもんか」

 数分後。ウルフとダークの周囲には、死体の山が出来上がっていた。向かってくる冒険者はあっという間に物言わぬ骸と成り果て、最後に残ったのは血と肉だけだった。

「んじゃあ、都市の中心部に行くか。確か大通りが交差してる地点だったか」

「うん」

 返り血によって服を真っ赤に染めた二人は、並んでゆっくりと都市の中心部へ歩き出す。その途中、冒険者が数人程現れては襲ってきたが、皆他の者たちと同様の末路を辿った。

「ねぇねぇウルフ君、あそこの路地に隠れてる子がいるけど、どうする?」

「向かって来ない奴は放っておけ。どうせすぐ死ぬんだ」

 裏路地で震えている少女を見つけて指を差すダークに、ウルフはそう返した。冒険者ギルドを通り過ぎた頃には彼らに歯向かう者もいなくなっており、大通りに人の姿はなくなっていた。

「さて、と。ここだな」

 そうして、二人は都市の中心部に辿り着いた。街道から続く二つの大通りが交差する場所。本来なら市場などで賑わっているはずだが、今は彼ら以外に誰もいない。この状況で立ち向かってくる果敢な冒険者は、もう既に二人が始末してしまった。それ以外の人間はとっくに逃げ出した後だ。

「んじゃあ、終わらせるか」

「うん」

 交差点の中央に来ると、ウルフは跪いてダークと目線を合わせる。すると、ダークがウルフに顔を近づけ、彼の唇に自分の唇を重ね合わせた。

「「ソウル・コネクト」」

 すると、二人の体を白い光が包み込んだ。優しくも眩しい、全てを塗り潰すような白い光は、やがて空を貫く程の高さになる。そうして生じた光の柱は、徐々に太く大きくなっていき、都市を飲み込んでいくのだった。



  ◇◆◇



 ……少し前。


「はぁ……はぁ……何だったんだ、あいつら?」

「こっちが聞きたいわよ……」

 門を抜けて。俺たちは息を切らしながらそう漏らしていた。ふと振り返ると、門の向こうでさっきの人狼と金髪少女が、都市の冒険者を虐殺しているのが見えた。

「とにかく、さっさとずらかるぞ。あいつらの気が変わったら終わる」

「そうね」

 あいつらは都市を出た俺たちを深追いしなかったが、都市の冒険者を始末したらこちらを襲ってくるかもしれない。人体を軽く真っ二つにするような連中と戦って勝てる訳がないのだから、ここは奴らから逃げ切るのみだ。

「ったく……ただのお使いのはずが、面倒なことになったな」

 時間は掛かるものの戦闘がない楽なクエストのはずだったのに、まさかの死闘を繰り広げることになった。相手が手を抜いている様子だったので逃げ切れたが、そうでなければ他の冒険者と同じく惨殺死体と化していただろう。

「ねぇ……やっぱりおかしくない?」

「何がだよ?」

 街道を走りながら、アスモが疑問を呈してくる。だが、彼女の言いたいことが分からず、俺は問い返した。

「分かんないの? 人間を真っ二つにするような相手から逃げられるなんて、普通に考えてあり得ないでしょ」

「それは……」

 アスモが言っているのは、あの人狼たちの異常な強さ。そして、そんな奴らから逃れることが出来たことの不可解さ。

「あいつらが私たちを舐めてたってのはあるんだろうけど、それだけで説明つかないでしょ? 普通に考えたら、最初の一撃で瞬殺されてるはずだもの」

「確かにな……あ」

 アスモに言われて、俺もおかしいと思い始めたところで、思い出したことがあった。

「何よ?」

「冒険者は瞬殺されてたけど、明らかにそうじゃない奴は即死してなかったんだよ」

 思い出したのは、あいつらとの戦闘になった時に覚えた違和感。青髪の少女やおっさんなど、転生者でも冒険者でもなさそうな人間はまだ息があった。まあ彼らも結局殺されていたが、そちらは冒険者のように惨いことにはなっていなかったのだ。

「この世界には、転生者じゃない人間が一定数いる。そういう非戦闘員は、あいつらの攻撃の効きが悪いんだ」

「……普通逆じゃない?」

 気づいたことを話すと、アスモが怪訝そうに突っ込んできた。……まあ、普通に考えたらそうなんだよな。日々魔物と戦ってる冒険者より、非戦闘員の方がよっぽど体が脆そうだし。

「そこら辺の絡繰りについては後で考えようぜ。今はさっさと町に戻って―――」

 そんなことを話していたら、背後から大きな音が聞こえてきた。さっきの奴らが追い掛けてきたのかと思って振り返ると、そこに広がっていたのは衝撃的な光景だった。

「あれは……!」

 もうかなり離れた交易都市。その中心部から、白い光の柱が生えていた。太陽のように目を焼く光は、見上げるのも億劫なくらいの高さ。その光の柱は、徐々に太くなっていく。光の柱はどんどん大きくなっていき、都市の外壁を飲み込んだところで今度は萎んでいった。

「都市が……」

 そうして残ったのは、ただの更地だった。建造物の痕跡は一切残っていない。遠いから人の姿の産むまでは分からないが、あの様子では生き残りもいないだろう。

「……行くか」

「……ええ」

 交易都市サンライは、たった今消滅した。その事実から目を逸らすかのように、俺たちは帰りを急ぐのだった。



「あ、ルシフル君。お帰り」

「思ったより早かったな」

 あれから休みなく歩き続け、ルクスナの町に戻った俺たちは、中央広場で真由美と幸太郎に出会った。

「……」

「……」

「どうしたの、二人とも? なんか元気ない?」

「疲れてるんだろ。一日中歩き続けたんだろうし」

 だが、二人と話している余力はなかった。歩き通しだったというのもあるが、あの人狼たちとの戦闘、そして都市壊滅を目の当たりにしたことで、精神的疲労が酷い。

「どうせ後は寝るだけなんだし、さっさと宿に行こうぜ」

「そうだね」

 そういう訳で、俺たちは二人に連れられて宿に戻るのだった。



「はい~? 交易都市サンライが消滅、ですか~?」

 翌朝。ギルドに赴いた俺たちは、昨日の出来事を報告した。正直真面目に報告しなくても報酬だけ受け取ればいいんだろうが、あれを黙ったままでいられる程の図太さは持ち合わせていなかった。

「またまた~。冗談にしても笑えないですよ~」

「冗談だったら良かったんだがな……」

 しかし、いつものピンク髪の受付嬢には信じて貰えなかった。……まあ、一応報告したし、後で困ったとしても俺には関係ないか。

「た、大変です……!」

 すると、大声でギルドに駆け込んでくる人物が。着ているのはギルド職員の制服だし、こいつも受付嬢だろうか。

「交易都市サンライが壊滅……いえ、消滅しました!」

「……はい?」

 今入ってきた受付嬢の言葉に、ピンク髪は首を傾げた。

「だから、サンライが消滅したんです……! 人狼型の魔物が1体と金髪の少女一人の組み合わせが、都市を完全消滅させたんです……!」

「……」

 続けてなされた具体的な報告に、ピンク髪が無言でこちらに目を向けてくる。

「だから言っただろ……あの都市はもうない。影も形も一切残ってない」

「で、では、サンライの冒険者ギルドは……」

「跡形もないな。冒険者があいつらに大量虐殺されるところは見たが。他の連中も大体死んだんじゃないか?」

「……」

 ようやく現実を受け入れたピンク髪は、顔面蒼白になって今にも倒れそうだった。

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