第十六話「湿地の証言、剣より言葉を」
両者によって会談がおこなわれるように決まった。 私も王につくように乞われ、私とリオネ、そしてゴブリンの部隊長となった、クルスが共に向かう。
川岸に設営した会談場所のテントに向かう。 向こうには鎧を着こんだ爬虫類のような人種が三人いた。
(彼らがリザードマンか。 一見すると見た目は怖いが、会談に応じるなら対話でおさまるか......)
「私はザルドラの王、ガルギアだ」
「私はリストアの将軍、【フォルシ】です」
そうリザードマンは見た目とはちがい丁寧な口調でこたえた。
「それでフォルシどの。 こたびの派兵はどういうおつもりですかな。 我らは貴国と戦うつもりはないのですが」
「......では、我が方に差し向けたモンスターの件、どう弁明なさるおつもりか」
(モンスター、リザードマンの方でも!)
「我が方に差し向けたモンスター...... 貴国も、か」
「貴国も、ということはそちらも......」
両者が少し沈黙した。
「詳しくお話いただけますかな」
そうガルギア王が問うた。 フォルシ将軍は側近たちと顔を見合わせうなづき話し始めた。
「......我らの領土に突如、モンスターが出現し、町二つ破棄せざるを得なくなりました」
「それで我が方が行ったという証拠は」
「そちらが信じられるかはわかりませぬが。 人狼族がその近くで目撃されております」
「それが事実か調べさせていただきたい。 もし事実であれば、こちらは謝罪や賠償を行う用意がある」
その提案が意外だったのか、少し驚いたフォルシ将軍はうなづく。
「......ふむ、わかりました。 それならば調べられるがよいでしょう。 【ザーク】」
「はい!」
一人の大柄なリザードマンが呼ばれた。
「このものを連れ、我が方での調査をお願いします」
私たちは、馬車でリザードマン領をモンスターがあらわれた場所へとむかっていた。
「リオネ、あなたは残るべきだったのに......」
「いいえ、王女である私の証言なら、我が方の正しさを証明できます」
少し強い口調でリオネはいった。
「それはどうかな」
ザークが口をはさむ。
「どういうことです?」
「あそこには人狼族がいたのは間違いない。 足跡もそうだったというしな」
自信ありげに、少し
「そんなことは......」
リオネは言葉を飲み込んだ。
(ハウザーのことを考えているのか...... 確かにハウザーが関わってる可能性は高い。 ただこれが事実だとしても、賠償で戦争を避けられるならまだましか...... 王が賢明な方でよかった)
リザードマンの町は湿地帯にあり、泥を乾かしたような半円球の土壁の家屋が点在する。 まばらにある果樹園には果実がなっているが、形も悪い。 それに村にいるリザードマンたちは少しつかれたような顔をしているようにみえた。
(リザードマンたちはそれほど豊かではないようだ)
「それにしても人間とゴブリン族が人狼族とともにいるなんて奇妙だな」
そうザークはこちらをみていった。
「ああ、私たちは人狼族と同盟にある。 とはいえ、王からは事実を調べるようにと言いつかっているから、人狼族側に有利な行動はとらないと約束しよう。 あとで遺恨を残すのでね」
「そうしてもらいたいもんだ」
そうザークは皮肉をいい外をみた。
しばらく進むと、町がみえてきた。 台風のあとのように、かなり荒れ果てた惨状だ。
「ここだ」
そこは切り裂かれたような傷がある家屋やまっぷたつになった樹木などが無数にある。
「これは、なんのモンスターですか?」
「キラーマンティス。 巨大なカマキリだ。 そいつが群れで襲ってきた。 その数日前に何人かの人狼族をこの辺でみたやつがいて、兵士に伝えた......」
「確かにモンスターがあらわれたのは間違いなさそうです。 それでも人狼族が行ったとは断定できないはず」
リオネの問いにザークはいう。
「リザードマンだから嘘をいっている。 そういいたいのか?」
「証拠にはなりえない、といっているのです」
ほうリオネがいうと、あきれたようにザークは首をふった。
「他に証拠は」
「そこのマングローブの森をみろよ」
かなり朽ちたようなマングローブがある。
「朽ちているね」
「その先にみえるのはバルモ山だ。 そこは俺たちリザードマンは越えられない」
「なぜ?」
「先生、リザードマンは定期的に多くの水分の補給か必要なのです。 あの山の高さだと、越えるまで水分が足りないかと......」
ゴブリンのクルスが教えてくれた。
「よく知ってるね」
「長から他の種族のことを少し聞かされております」
そう照れたようにいった。
「そうだ。 そのゴブリンのいうようにあれを越えるのは俺たちには無理。 しかしあそこからでないと、リザードマンに見つからずにここにはこられまい?」
(確かに人狼族がザルドラからここまで見つからずに来るのは無理だな)
「ケイどの...... 何者かが近づいてきます」
リオネの耳がうごく。
「何者か...... ザークどの」
「......いや、聞いてはいない。 一応、マングローブの森に隠れよう」
マングローブの森に隠れると、複数の鎧を着こんだリザードマンがキョロキョロと周囲を確認している姿がみえた。
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