第十五話「雪と魔法と戦の気配」
「はっ!」
目の前に二つの光る球体が空中を舞うように動く。 それを操り岩へと当てると岩は少しえぐれた。
「ふぅ......」
「お疲れ様です」
そうリオネがタオルをもってきてくれた。
「うん、ありがとう」
「もう自由自在ですね」
「ああ、なんとかね。 あとは増やすか威力をあげれば、リオネも使えるようになった?」
「ええ、まだコントロールはいまいちですが...... 風よ!」
岩に剣で切ったような筋がはいる。
「すごい威力だ。 剣並みじゃないか」
「ケイどのが根気よく教えてくれたからです」
「それはリオネが努力したからだよ。 ゴブリンたちは?」
「ええ、炎や水、氷など彼らの習得スピードは驚くべきものがあります」
「ゴブリンたちは正直であるがままに自然を受け入れているからだろうね。 私のように懐疑的ではなかった。 だから簡単に習得が可能だったのだろう」
「確かに私たちは物事を自分達の尺度でとらえますから...... その常識が知見を狭めているのでしょう」
「そうだね。 ただ、まだ実用性まで程遠い。 訓練して練度をあげないと...... あっ」
空から静かに綿毛のように白い雪が降ってきた。
「もう冬になる。 リオネは帰らなくていいのかな?」
「ええ、ここの建物も断熱性が上がってるので、寒くはないでしょう。 もう少し魔法の修練をして行きます」
リオネのいうとおり、冬になったが家屋の断熱や防寒具の質の向上で寒さは苦にならなかった。
「これで凍死や飢えで死ぬ者はいないでしょう」
そう安心したようにビケルさんはいった。
「新しくはいったゴブリンたちも訓練と仕事になれ、ギルドの依頼をこなしています」
ビケルさんがうなづくようにいった。 犠牲もなく冬を越え、私たちは動き始めていた。
「ザルドラとの取引でギルドの依頼もありますし、手に入れたモンスターたちの部位も取引ができ潤っていますね」
「ええ、生活の質は一年前とは雲泥、これもケイどののおかげですな」
「いいえ、でもこれでゴブリン族は安泰というわけですか?」
「......そうですな。 ひとまずといったところです」
「というと、なにか心配事でも」
「亜人種族は互いの領地の奪い合いをしています。 我々のように手を取り合うのは珍しいのです。 今は各種族とも大人しくしていますが、いずれ......」
リオネが悲しげに目を伏せる。
「それで今、警戒すべき亜人種族は?」
「それならば、我らの近くにいるリザードマンでしょう。 彼らは狡猾で残忍、我々の領地を狙い幾度も侵攻を企んで来ました」
リオネがそう眉をひそめる。
「ビケルさんはどう思う?」
「特になにか彼らについての悪行などは聞き及んでいませんが、我々はリザードマンとさほど接触はありませんからな」
そう首をひねりビケルさんはいう。
「そうですか。 とはいえ、かれらの動向に注視しておこう」
そして事態が起こった。
「リザードマンが陣をはった?」
「はい、国からの報告で、川をはさみ彼らは武装したものたちで陣営をはり、ザルドラに攻めてくる様子を見せています」
リオネが真剣な面持ちでいう。
「それは、急に......」
「もしかしたら、ハウザーと関係があるかもしれません」
「ハウザーと?」
「ええ、捕えていたハウザーが何者かによって逃亡したのです」
「それと、リザードマンが関係しているのですかな」
ビケルさんはそうつぶやく。
「......同時なら可能性はあるな。 人狼族は彼らを警戒してデススネイルに対策を取れなかった。 もしハウザーとリザードマンが共謀しているなら、その行動に符合する」
「そうですね...... では私は国に戻り、協力をしてきます」
「リオネどの、それならば、我らの精鋭をお連れください」
「それは...... よろしいのですか? ビケルどの」
「ええ、ケイどの」
「ああ、私もいこう」
「それは心強い! 早速、本国に手紙を送ります!」
私たちは、ザルドラにゴブリン部隊とともに向かった。
「おお、よくきてくれたケイどの、そしてゴブリン族のものたちよ」
そう王は感激して迎えてくれた。 そこはリザードマンの国、【リストア】の陣とは対岸にはられた陣営だった。
「ゴブリン族は人狼族と同盟関係ですから、お力をお貸しするように長、ビケルからいわれてきました」
「ふむ、ありがたい。 正直、我らは長らく戦いを行っていなかったため、実戦での戦闘を経験したものが少ない。 精強なゴブリン兵ならば、その弱さを補強してもらえよう」
「ええ、こちらは幾度も死線を越えてきたのものたち、戦いならばお任せください。 しかしまずは対話からお願いします」
「ふむ、我らもそう思い使者を向かわせて、待っているところだ」
そういっていると、川向こうから使者がかえってきた。
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