シャッター音は残らない
@HITOHUTO
第1話 再会
土曜の午後。ショッピングモールは買い物客と家族連れでごった返していた。
Aは人波を抜けようと歩いていたが、ふと懐かしい声が耳に入った。
「マジでさ、ああいうの撮ったら絶対伸びるって」
「はは、また言ってるよ。でもお前ならホントやりそうだわ」
振り返ると、二人の青年。金髪で派手な格好をしたBと、その隣で自然に笑っているC。
――中学の同級生だった。
「……B? C?」
「うわ、Aじゃん! マジかよ、久しぶり!」Bが大げさに手を振る。
「懐かしいな。元気にしてたか?」Cも軽く笑った。
十年前、Aと彼らは同じクラスだった。特別仲が良かったわけではない。ただ、休み時間に冗談を言い合ったり、一緒に帰ったことが数えるほどあるくらい。友人とクラスメイトの間のような、曖昧な関係だった。
だからこそ、思わぬ再会は奇妙な懐かしさを呼び起こした。
「……まさかこんなとこで会うとはな」
「俺、今YouTubeやってんだよ。登録者二十万超えた」Bが得意げに胸を張る。
「マジでスゴいよ、こいつ。俺も隣で見てると刺激になる」Cが肩をすくめる。
Aは複雑な気持ちで相槌を打つ。十年前の悪ふざけの記憶も残っていたが、昔話を交わすうちに一瞬だけ当時の空気が戻る。
しかし膀胱はもう限界に近づいていた。
「あ、悪い。ちょっとトイレ」
軽く謝って足早に駆け込む。
背後に二人の笑い声が遠ざかっていった。
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