第11話 スティエル・メルタシュ・アリュターレ

「おはよ! おーい起きて!」


 ソファで眠っている俺を、ミングルが叩き起こしてきた。うーん、まだ眠いんだが……騒ぐな。


 ……おい、まだ早朝……。


「――にもなってねえじゃねえか!」


「ふふふ」


 時計の針がまだ3を指してるんだが? つまり午前三時だが? 何をしてくれてんだコイツ?


 すっかり眠気覚めちまったじゃねえか!! あと数時間ぐっすり寝かせろよ!!! 家借りてる俺は言えないかもしれないけどさ!!!!


「なにがふふふだよっ」


 バカかな。


 はあ……。俺は上半身を起こして、昨日あったことを振り返った。


 えーっと、昼ご飯の後、ミングルに街を軽く案内してもらったな。それからクロっちがレクリエーションとして綺麗な火花の魔法を見せてくれて、風呂に入ってステーキを食べて寝た。


 まあそんなとこか……。いろいろ新鮮な一日だったな。けっこうぐったりだけども。


 部屋の整理整頓が終わってないとかで、結局俺はロビーのソファで寝ることになった――というかベッドが『なぜか』焼肉の匂いがすごいことになっていたらしい。


 ……クロっちの顔を見たら察せたが、アレだな、ジャーキーを盗み食いしてたんだろうな……昨日の夜も食べ過ぎってミングルに叱られてたし。


 ……あれ、今の俺、けっこう健康的な生活スタイルしてんな。いいことだ。


「で、なんだよ。こんな深夜に」


「なるたけ早めにExploitテガラを挙げないといけないからね! 作戦会議をしよーう」


「……」


 あれか、昨日の昼にギルドで見た怪しいやつらの件……枯渇を利用した魔道具だとか、なんかヤバそうなこと言ってたな。


「ボクがお手伝いしてあげるから、さっそくInvestigationチョウサに行こう! もしかしたら悪い人たちは、こういうMidnightマヨナカに活動するかもしれないからね〜、もしかしたらね〜」


 なんかこいつのこと分かってきた気がするぞ。たぶんアレだな、もうなにか掴んでるんだな。仕事が早い。


「じゃあどうすんだ?」


 俺はテーブルの上に乗っけてあった『轟響の夜明けレコ・ラ・ローヴ』をカチャカチャ調整しながら尋ねる。


 銃の扱いとか、インターネッツ知識くらいしかなかった俺でも使い方が分かる便利な銃だ。マジでありがとう、ニルちゃん。全然連絡よこさないけど……。


「だから実地調査だよっ! さあさあ早く! 美味しいパフェでも奢ってあげるからさ〜、運がよかったら悪巧みが聞こえてくるかもしれないよ!」


「ちょっおい引っ張るな! ストップって銃暴発するぞ! マジで!」


「ふふふ〜その銃は安全だから大丈夫だよ〜!」




 ……こうして俺は市街地に引きずり出された。


「うおお」


 夜景もきれいだなあ……。


 昼間はそびえ立つ無数の建物と行き交う人々に驚いたが、夜は高層建造物の照明が暗い星空に映えている。


 深夜三時ということもあって、すれ違う人数は圧倒的に昼よりも少ないが、それでも東京みたいな雰囲気を感じた。クール都会がすぎる。


 俺の思ってたファンタジーとけっこう違うんだけど、これはこれで好きな景色だな。


「そこにねー、ちょっと歩いたら人気なスイーツ屋さんがあるんだよ! あそこのパフェってもう絶品なんだ!」


「そうなのか」


 うおう、ミングルのしっぽがぶんぶんしている。よっぽどそのパフェは美味しいらしい。


 俺も気になるな。


「さ、行こう!」


 ミングルが足早に街並みをくぐり抜けていく。軽いステップはまさに猫といった具合で、そこそこいる通行人たちの間を閊えることなく進んでいった。


 あのう、普通の一般男子高校生である俺のことを考えてくれませんかね。人やものにぶつからないように注意してたらミングルのこと見失いそうなんだが……。


 いや予想はしてたけど、絶対アイツがパフェ食べたいだけだろ。こんな夜中に食べると太るぞ。


「いろいろ店があるなぁ」


 昼間とは違う通りを歩いているから、また目新しい店が多い。冒険者ギルドの近くなのもあって武器や道具などを売る店が多数を占めてる。


 昼間の大通りと比べるとこっちは小さいが、その分一般人には馴染みの薄い専門店が増えた印象だな。俺もいつか使うことになるのかなぁ?


「あったー! あっちあっち、あの水色のSignカンバン!」


「アレか」


 結構近いな。


 俺の所にミングルが戻ってきて、店の看板を指差すとまたすっ飛んでいく。しっぽが高速で動きすぎて、スクリューにでもできそうだ。


「あのう……」


 ガキかな。


 ちょっと歩くと、水色の看板の掲げられたスタイリッシュなスイーツ屋が見えてきた。寒色系の爽やかな外見だ。


「おっそいよー! もう〜」


「悪い悪い。お前がマジで速すぎたから……」


 って、もう注文を済ませたのか。マジで速い。Too Fast。


 ミングルの両手にはそれぞれパフェが握られていて、透明なグラスの側面からカラフルな層が見える。視覚的にも楽しいおやつだ。


 俺もミングルといっしょに、店先のテーブルに座る。


「はい、これね。ここの評判のいいメニュー、『スティエル・メルタシュ・アリュターレ』だよ!」


「スティール……なんて? 融解のアルゴス?」


「スティエル・メルタシュ・アリュターレ! どっから出てきたの……ぷぷ、融解のアルゴス」


「うるせぇ」


 か、噛みそ〜……。


 スティエル・メルタシュ・アリュターレ――通称『スティメレ』――は、ホワイトプリンの層、赤いジャムの層、薄紫の瑞雲花スィティアラのゼリーの層にシロップ……とものすごく甘そうな層構造のパフェらしい。


「半分以上知らない単語なんだが? いや三分の一かな?」


瑞雲花スィティアラはこれ、紫色のFlowerオハナだよ」


 どこからともなくスズランのような花を取り出して見せるミングル。うーん、どこに持ってたんだろう。


「これのつぼみを使ってゼリーとかジャムとかにすると、す〜っごいいいSmellカオリの食べ物ができるんだ! あ、もちろんお酒にもなるよ〜、ふふふ」


 スプーンでスティメレをすくって食べてみる。


「……うまっ」


 ふわってしたぞふわって! ふわっ。


 まずプリンの層がマジで柔らかい! なんかもう液体なんじゃないかってくらいの柔らかさで、牛乳の甘さが口の中に広がる。


 赤いジャムはイチゴかな? 俺の知ってるのと味はちょっと違うが、甘さだけでなくかすかな酸味がアクセントを加えてくれる。


 で、瑞雲花スィティアラゼリーは程よい弾力が楽しい! うおお、時間差で濃厚な花のフレグランスが……。


「ふふ、おいしいでしょ?」


「おお……めっちゃうまい」


「クロっちのステーキとどっちがおいしい?」


「そりゃ方向性が違うだろ」


 でもま、クロっちの料理のほうが好きかなぁ。


 それはさておき、あまりにも美味しいもんだから気がつくと半分以上無くなっていた。


 ……こんな夜中にこんなあまいもの食べた後悔が少しやってくる……いやでもおいしいしいいか! パーッと食べてしまおう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る