第12話 ありとあらゆる悔恨……
……スティエル・メルタシュ・アリュターレは無くなってしまった。
ここまで深い悲しみを感じたのは久々かもしれない。
「ね〜。なくなっちゃうと悲しくなるよねえ、わかる」
「お前……なんなんだその量は」
ミングルはパフェをすでに四つも食べ尽くし、今まさに五つ目に手を伸ばさんとしている……いやおかしいだろっ! 普通に考えておかしいだろあの量!?
パフェ一個で高さ二十センチはあるんだぞ。あ、あいつ俺よりもちっちゃいくせにどこにそんな腹が……? 体内全部胃袋だったりする? それとも星のカービィ……?
「ふふふ。おいしいものはいくらでも食べれちゃうからね〜」
「人体構造どうなってんだ……」
「もしかしたらお腹の中で全部吸収してってるかもよ」
「やっぱカービィじゃん!」
食べれる食べれないは抜きにしても、絶対甘すぎて胃もたれする。俺、昔ケーキの食べすぎで夜中に吐いた経験あるから……。
「どーう? スティメレパフェ美味しかったでしょ!」
「ああ、うまかった……うまかった、ああ」
「まーたくよくよしちゃって!
ごめん、俺に英語のダジャレは分からん。英検三級に落ちたからね、もう二年前だから今は受かるかもしれないが。
「ごちそうさま――さて! ボクはお会計を済ませてくるよ」
「速いな食べるの! ってちょっと待てっておい!」
ミングルは可愛らしい足音とともに店内に駆け込んでいった。
ふう、ごちそうさま。
「……ん?」
――ガガンッ。
突然、なにかが砕けるような音がして――
「うぉおっ!?」
俺の頬をなにかがかすめた!
小さな切り傷が生まれ、鋭い痛みと共に熱さを感じる。
「きゃああっ!」
……他でもなんか起きてるっぽいな……!
街中でも複数の悲鳴が重なるように聞こえてきた。そして何より、空を見上げて気づいたのは。
「空が、黒く……!?」
少しずつ、夜空に油を零したように、ゆっくりと漆黒のベールが覆い始める。煌めいていた星々が覆われ、ただ一面の黒い空だけが残り……。
誰かが叫ぶ。
「『枯渇』が起きた――!!」
……マジかよ、おい!
枯渇現象ってこんな突発的に起こるもんなのか……!?
街にいた人がパニックになりながらどこかの方向へ走り去っていくが、転んでしまう人も多い。チッ、なんでミングル……すっげえ最悪なタイミングだな! チクショウ!
「『
腰に下げていたハンドガンを握りしめる。
ミングルから聞いた――枯渇が起きたんなら、なにか原因があると。十中八九、ザンダーも出張ってくるだろう。
おそらくザンダーが動けば解決するはずだ。それまで俺は警戒を続けておいて、どうすべきか――。
「ぐろぉおおおおぁああああああああああ!!」
「……やっぱ出てくるよな、クソが!」
魔物だ……! しかもちょうど人々が結構逃げてる先に!
体躯が数十メートルを超すほどの巨大な怪物が出現し、大きな咆哮を上げる。濃いグレーの巨人、と言うのが一番簡潔だろうか。
人間にも近い見た目だが、その皮膚には黒く脈打つ血管のようなラインが走り、目は真っ赤に血走っている。
「おいミングル! 寝てんのか!?」
『
「――喰らえデカブツッ!」
――シュバァン!!
ソニックブームを巻き起こしながら、一直線に巨人の左眼に吸い込まれていく弾丸。
そのまま、貫け……!
「ごぁああああああああッ!!」
チッ……目玉の一発じゃあ死なねえかよっ!
ヤツの目玉をひとつ吹き飛ばすことには成功し、赤黒い血液が飛び散る。だがそれだけじゃ決定打にはならず、痛みにもがき苦しむように暴れながら、もう一つの目玉で俺を睨んだ――。
「チィ……!」
こりゃ完全に狙われたな、クソッタレが。
大きな腕が大きく振るわれるだけで、周辺の建物はいとも容易く崩落し、近くにいた人々をも巻き込んでいく。
「……」
巨人に向けてトリガーを引くが、弾丸はヤツの右眼を射抜くより先に、その瞼に阻まれた。かてえな、おい。
一歩、踏み出すだけで地面は砕け、崩れ落ちる!
「こっちに弾切れはねえんだよッ! 来れるもんなら来てみろよなぁああ!」
「ごおあぁあああああああ!」
まだこっちに腕は届かねえな……図体がでかい分動きは遅いらしい。
俺にできるのは時間稼ぎ……ザンダーや星胡はすぐ飛んできそうな気もするが、まさか寝てないだろうな。
何度も発砲の爆音が響き、反動で俺の腕に痺れが走る。目以外には弱点と呼べる弱点はなさそうだ。硬い皮膚に阻まれて、弾丸がまともに傷を入れられない。
「ぐろおああああ! ごあおおおおおおおおお!!」
……うるっせーなあの野郎!!
フツーにその絶叫耳障りなんだが!? 手が届かないからって鼓膜破りに攻撃チェンジするのやめてね!?
それだけならまだいいんだが、走っていく人にぶつかってよろけるわ、石片――デカブツが破壊した建物の残骸だろう――がスレッスレで飛んでってマジでビビるわで正直、こっちも安置からバンバン撃てるわけじゃない。
「ぐっ……!」
まただ!
飛んできたガレキが俺の右肩をそこそこ深く切って血が飛ぶ。
「ああもう、チクショウ! さっさと死にやがれオラァアアアアア!!」
遠くからじゃ狙えねえな。
俺はそう思って、デカブツの方に向かって飛び出した。
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