第15話 謙虚
『
勝ち確状態だからこそ出来る。皮肉を込めた問い、敵を嵌めた時の高揚感、これだから実験はやめられない。
『....やっぱり返答はないか〜聞くのが遅すぎちゃったかな〜』
二重人格は乗っ取れないんだろ?
『ガ"ッ"!』
意図を読み取ってくれてありがとよ。ヒルト
『アンタ、頭おかしいわヨ。色々言いたい事はあるけど後回しネ』
呆れて物も言えない。と言ったような
あの時から、ヒルトはあまり人格を表に出していなかった。俺は"そこ"に賭けた。
お前が催眠にかかってない事に
エミールが突然ひとりでに動き出したヒルトに貫かれ、蹲る。
それは、
頭が割れそうだ。まるで脳を直接千切れらているような痛み。たが、それだけだ。
とても正常ともいえない、まるでゾンビのような起き上がり方だったが、確かに彼女は立ち上がった。
どう考えても、意識の乗っ取りが厄介、あの巨漢は恐らく最低再起不能。そしてアイツは俺をまだ乗っ取れない可能性が高い。じゃかなかったら、あんなペラペラ喋らずとっとと乗っ取ってるだろ。希望的観測だが、いつでも乗っ取れる状況ならもう負け確だ。考えなくていい。
『あれ〜?何で催眠が解けてるのかな〜?』
心臓がポンプとなり、血がエミールの肉体から徐々に失われていくが、平然と起き上がる。
『まあいいか。時間が伸びるだけだし...三速』
高速で突撃してくるエミール、
だが俺だって馬鹿じゃない。準備はしてんだよ。
「見えざる刃
日本語で詠唱する。こっちの方が早い...頼んだぞ、ヒルト
凶刃が
恐らくコイツの読める思考は表層の思考のみ、それ以上読めたら、もっとヒルトを警戒してる。なら!
『忘れてんじゃないわヨ!』
刺さったままのヒルトが、軌道を変え、木にエミールを激突させる。これで位置は固定された。
『一本取られたかな〜。まあ私は謙虚だからね。また一つ学んだ事としよう』
人を最後まで使い潰して、どこが謙虚だ。もうコイツは動けねぇ...
『命を賭けても、息子を守ってくれ』
お前の事はほとんど知らないが、息子を想う父親には見えたよ。
もしかしたら案外、見た目子供の俺がお前の息子を連れて逃げて欲しかったのか?
もう知る由もないか...
俺が生きる為に、死んでくれ。
そのまま、詠唱を行う。
もしも意識があるならせめて安らかに
「見えざる刃
男の首が重力に従って地面に落ち、戦闘が終わる。かに思われた。
『...仕方ないないか』
「あ?」
『堕解』
謙虚は言葉を発していないのに、不思議とそう聞こえた。
ソレは、記憶を失っても、肉体を失っても感じる。
パキパキと、何かが集まってるような音が聞こえる。落とされた首か、それとも胴体か。気が付けば、異世界に見合わないソレがいた。
神は今
近未来のアンドロイドのような、完成された美がそこにいた。機械的な金属が結合し、人工皮膚のようなものと組み合わさって、肉が生まれた。
肉体に、様々な人が理解出来ない装備を組み込まれ、ヒトが生まれた。
完成された人間の上位種
心が俺と
『申し遅れました。私は大罪旧栄神――傲慢の理 』
『――イスと、申します』
イスの大いなる種族が、降臨した。
逃げろ逃げろ逃げろ、戦うな。何故お前が?無理だ逃げろ。逃げる事すら遙かに遠い
逃げなきゃ。逃げてどうする?置いていくのか?自分だけでも生き残れ。
喪失状態のまま催眠が解除され真実の情報が脳に送り込まれる。冷静さを失いそうになるが、
ウルセェ、
――すんでの所で持ち堪えた
「イスね、了解。あーそういえばさ」
コイツはやばい。それは理解出来るのに、記憶にない。対策が取れない。何をしてくるか分からねぇ。
『何でしょう?』
「答えるの忘れてたなって、お前の質問」
『それはありがたい。あの薄っぺらい人間の子供が、何故貴方を動かしたのか。知りたいのです』
こちらに無警戒に近づいてくる。口調が変わった、やはり肉体に引っ張られて口調が変わるのか?まあいい...目的は時間稼ぎだ。
「勇者が、
イラつくんだよ。神のあれこれだけで一喜一憂して、全てが決まるのが。
『興味深い答えですね。では、貴方にとって勇者とは何なんですか?』
興味深そうな顔でこちらを見据える。
「勇者とは勇気ある者、その限りではない。勇者を貫く物だけが、勇者なんだ」
...そろそろか?
『哲学的ですね。まあ、何を言いたいのかは分かりました...やっぱり人間って滑稽で面白いですね』
少しは納得したらしい。笑顔でとんでもない事言うなコイツ。
まずは先制。
「見えざる刃
乱で一度撒き散らした刃を再度目標に向け、全方位からの連撃。今の俺の最大攻撃手段だ。
『
金属が集めて壁を作り...不可視の刃を防御した?ああ、やっぱ見てたのか。イリスとの戦闘。
一旦距離を取る。見えざる刃があるだけまだ遠距離の方がマシだろ!
夜の森の中へ飛び込み、闇の中に潜伏...出来る事は何だってしてやる。
「...は?」
何だよ...そんなのありかよ
傲慢が
ヒルト!防げ!
『ッ!』
銃であった。
異世界では聞き慣れない発砲音と共に、硝煙が上がる。
....ヒルトが防いでくれなかったらどっかには当たってた。
まずいな、銃なんて今の体じゃ避けれても一発までだ。この肉体じゃ、銃撃なんて...いや?待てよ...
霊視 見えないモノを見る力だ。
なるほど...なら俺がすべき事は森の中で潜伏する事。策は考えついた。
後はどうそこまで持っていくかだ。
『鬼ごっこですか?良いですね〜一回やってみたかったんですよ〜』
かくれんぼだクソが!
傲慢が草を踏み締める音だけが聞こえてくる。人格が混ざった影響か、はたまた催眠を食らった直後だったからか、冷静さを少し失いそうだ。チャンスは...一度きり
『ミツケタ』
ここからが勝負だ。
機械には急所がない。少なくとも、俺はこいつの弱点を知らない。つまり、俺の物理攻撃じゃ破壊不可能って事だ。
見えざる刃も駄目だ。さっきみたいに防がれる。なら
瞬間、俺は蜂の巣にされる。が、飛びつけはした...ならやるしかねぇ。
...舐めてんじゃねぇぞ!
「ヒルト!!!飛べ!!」
『...バカ』
彼女の作戦、それは掴みかかって固定し、自分毎傲慢を貫かせた上で、出来る限り高度を上げ続け傲慢の落下死を狙う事。
「俺の勝ちだカス!催眠なんてしたってもう意味ねぇぞ!」
『...そうかもしれませんね。ですが』
「ア"ア"ア"ァ"!!!」
彼女の肉体が、機械に取り込まれ外側から機械的に肉を抉られる。痛みを鈍らせないように神経系は破壊せず、痛めつける為だけに傷つけられる。
「...見えざる刃ァア!!!」
霊視で一番反応が強かった部位を左手で補足し切りつける――傲慢の反応が一瞬止まった。
今だやれヒルト!
標高1000m!これなら殺せるだろ!死ね!
…さて、どうやって生き残るかな。あっちが離してくれたからいいものの、死ねるぞこの高度。…ヒルトがなんとかしてくれる事を祈るか。
…ん?
『マッスル!!』
...マジで?
旧支配者『
この場合の「旧支配者」とは神性のことではなく純粋に人類発生以前の地球を支配していた勢力の一つである事を意味するだけである。神格では無い。
時間の秘密を解き明かした唯一の生物とされ、その功績から『偉大なる』を付けて呼ばれている。地球人と同じような特徴を持つが、基本的に知能の差がかなり大きい。
故に彼らはとてつもない科学力を持ち、精神交換を利用して肉体を超越し、実質的な
備考
また、「イス」とは彼らの故郷の銀河の名前であり種族名ではない。地球人が呼びやすいようにそう呼称しただけである。
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