第24話 強化
疑似迷宮四階。ここで迷宮では初めて、僕たちは苦戦を強いられることになった。
扉をくぐってすぐに現れたゴブリンを見て、僕は引きつった声で言った。
「うわ、鎧着てる…」
今までのゴブリンは防具は付けていないか露出部が多いもので、ナイフで容易に致命傷を与えられていた。
しかしこのゴブリンはきちんとした革鎧を身に着け、更に動きも洗練されている。
「これってゴブリン上位種じゃない?」ルシェルが図書室で読んだ知識を思い出す。
最初に出て来たのは一体だけだったが、倒すのには今までの倍の時間がかかった。
防具があるため、急所を狙える箇所が限られているのが原因だった。
「首か、脇から心臓を狙うか、関節部を攻撃して無力化するしかない」
僕は戦術を変更した。正面からの攻撃を諦め、側面や背後に回り込んでからの一撃必殺を狙う。
幸い何とかフェイントを使って風纏で加速することで倒すことができた。
次の一体はルシェルに任せてみる。
苦戦していたが、フレイムエンチャントの特性を活かした戦法を編み出した。
「革鎧ごと焼き切る!」
炎を纏った短剣で革鎧を焼き切り、そのまま心臓を狙う。効果的だったが、魔力の消費も激しい。
怪我を負いながらも事前に買い込んでいたポーションで回復し、スタミナと魔力とアイテムを消費していきながら何とか道中の敵を倒し、ボス部屋にたどり着いた。
◇
扉を開けた瞬間、僕は息を呑んだ。
中央に立っているのは、全身を鋼鉄の鎧で覆ったゴブリンナイトだった。
フルプレートアーマーが鈍く光っている。その周りには、革鎧を着たゴブリン上位種が十体以上。
「これは…かなり厳しいわね」ルシェルが緊張した声で言う。
戦闘が始まると、今までとは次元の違う激しさだった。
敵陣に飛び込んだは良いもののゴブリン上位種の連携は見事で、常に二、三体が同時に攻撃してくる。
それはまだ風纏と地返しで躱せるのだが、防御が堅く崩せないため包囲されてしまい1対1の状態を作り出せない。それを躱すために更にスタミナと魔力を消費する悪循環となってしまう。
「ファイアーボール!」
ルシェルが魔法で援護するが、敵の革鎧のおかげでダメージが通りにくい。
しかもシールダーまで居るせいでダメージなく魔法を防がれることも多く、魔力だけを消費してジリ貧になってくる。
「ルシェル!上を狙ってファイアーボール!!」
僕は一か八かの賭けに出る。ルシェルに僕の頭上に向けてファイアーボールを撃ってもらう。
シールダーの上を通り過ぎたファイアーボールが敵陣の中央に来た瞬間に、ポーションの空き瓶を投げつける。
爆発の瞬間、できるだけ敵の影になる位置に移動した。
光と爆音を上げ、ファイアーボールが爆発する。
影に入れなかった手足を炎を焼き、焼け付く痛みを訴えた。
それを強引に無視して、光の影響で目が眩んでいる敵の首だけを狙い刈り取っていく。
自分にも多少のダメージはあるが、風纏で軽減されている。
しかも目が使えなくても周りが分かるということは、この数秒は自分だけの時間だ。
その間にひたすらに急所を狙って攻撃していく。
耳から「キーン」という音がしなくなった時には、敵の取り巻きは瓦解していた。
残りの取り巻きの処理をルシェルに任せて、ゴブリンナイトに対峙する。
僕は風纏を駆使して敵の攻撃を回避しながら、隙を見て急所を狙う。
しかしフルプレートアーマーは首も露出して居ない上、関節部も鎖帷子がありナイフが通らない。
ましてやそれ以外の部分など全く歯が立たなかった。
「くっ…硬ったい!」
作戦を時間稼ぎに切り替える。
フルプレートの重さからか移動速度はさほど速くないのが救いで、剣戟の鋭さの割には何とか防ぎきることができた。
「ファイアランス!」
取り巻きをすべて倒したルシェルの最大火力の魔法が
結局、ルシェルの魔力が切れるまで魔法を叩き込み、動きが鈍ったところを関節に集中攻撃して引き倒し、その状態からヘルムを無理やり取ってから顔を刺すことで仕留めた。
二人とも傷だらけで魔力は尽き、体力も無くなって満身創痍だった。
神殿に戻るとメルナにひどく心配された。
報酬は金貨25枚を超えていたが、僕たちの心は晴れなかった。
◇
翌日、僕たちは冒険者ギルドの訓練場でライルに尋ねていた。
「ライルさん、僕たちには攻撃力が足りません。武器を新調した方がいいでしょうか?」
「武器か…。お前らの体格じゃあ重い武器で威力上げるのはなぁ…。高価な魔法武器買うのもお前らの目的に合わねぇし…。年齢からしたら十分強えぇんだがなぁ」
ライルは少し考えた後、頷いた。
「よし。ちと早いと思ったが修行を次の段階に進めるか」
そう言うと、ライルは訓練場の端から筋力トレーニングなどに使う鉄のインゴットを持ち出してきた。手のひら大の鉄の塊だ。
「よく見とけよ」
ライルが訓練用の剣を構える。魔力が体と剣に通る。一瞬、剣が微かに光ったかと思うと—
シュン!
鉄のインゴットが真っ二つに切り裂かれた。切断面は鏡のように滑らかで、まるで最初から二つだったかのようだ。
「これが身体強化とその応用の武器強化だ」
ライルが説明を始める。
「身体強化は魔力を体に通して、自分の行動を魔力でアシストする魔法だ。人の枠を外れた力や強靭さを得ることができる。武器強化はその応用だ。武器の性質を魔力で強化する技術で、切れ味や頑丈さを異常に上げることができる」
「それができれば…」
「おう、お前らの攻撃力不足も解消できるだろうな。まぁ剣士とかが数年かけて習得していく技術だ。俺は習得に2年かかったがそれでも早い方だ。すぐにはできねぇと思うがな」
僕はライルの動きを思い出していた。特に体の動きに連動した魔力の流れを。自分の体の中でそれを再現しようとしてみる。
数度、ピョンピョンと飛び跳ねて無意識で動かしている筋肉の動きを観て覚える。次に、ライルがやっていたように身体の中で魔力を魔法に変えるのを観ながら再現していく。この二つを同じタイミングで同じ場所に行えば…。
「ちょっとやってみます」
僕は軽くジャンプしてみるつもりで、筋肉の動きと同時に魔力を動かし、魔法として発動させる。
ドン!
気がつくと、僕は天井に頭をぶつけて落ちてきていた。
「痛ったー…」
「何で一発目で出来るんだよ…」
ライルがドン引きした表情で僕を見ている。明らかに祝福の影響だった。どう考えても身体強化は自分に相性が良い。
次に武器強化を試してみたが、こちらは身体強化程は上手くいかない。
「ルシェルもやってみろ」
ルシェルは身体強化を試したが、全く効果がなかった。しかし武器強化では—
カン!
インゴットに刃が食い込み、3分の1ほど切れ目が入った。
「これ、フレイムエンチャントに似てるわ!魔力の動きとか!」
「お前ら…俺の2年は…。しばらく休憩させてもらっていいか…」
疲れた顔でそう言って訓練場の端に座り込むライルを横目に、僕とルシェルは新しい技術の訓練に没頭していった。
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