第10話 大型新人(別視点)

俺の名前はライル。28歳の剣士の祝福で格Ⅱのベテラン冒険者だ。

祝福ってのは神の試練をクリアしたり鍛えることで昇格して効果が強くなる。

Ⅱですら十人に一人ぐらいしか居ないので余り意識はされてねぇがな。

おかげでギルドでも一目置かれているが、さらなる昇格の壁は厚い。


「これで依頼完了です。また今日も神の目巡りですか?」


ギルドの受付嬢が呆れたような声をかけてくる。


「ああ、今日もいい新人が出てこねぇか見回りさ」


「相変わらず好きですねぇ」


苦笑いされたが、俺にとってはこれが生きがいなんだ。

神の目での観戦と、有望な新人の発掘。これが俺の趣味であり、ライフワークでもある。


神殿の主伽藍しゅがらんに入ると、いつもの場所に腰を下ろした。

階段状の観覧席の中段、全体がよく見える特等席だ。

主神の目には、今は王都の神殿で行われている高位試練が映し出されている。

祝福Ⅲクラスの猛者たちが、ドラゴンの幼体と死闘を繰り広げていた。


「おー、ありゃあ炎帝のパーティーか。相変わらず派手だねぇ」


画面の左上には神殿名と試練内容が表示されている。

『アルディナ王都第一神殿・オルデアル神・幼竜1体の撃破』


こういう有名人の戦いも見応えがあるが、俺が本当に見たいのは新人だ。

特にチュートリアルを受ける奴ら。

そこにこそ、未来の英雄の原石が眠っている。


主神の目は自動的に内容が切り替わる。

神が「今最も注目すべき」と判断したものが映し出される仕組みだ。

だから地元の神殿の映像も結構な頻度で映る。


「お、切り替わった」


画面が変わり、別の試練が映し出された。

左上の表示を確認する。


『ヴェルデ神殿・オルデアル神・チュートリアル(スライム4体の撃破)』


「ん?」


ヴェルデ神殿。ここじゃねぇか。

しかもチュートリアル。新人だ。


画面には二人組が映っていた。

フードを深く被っているから顔はよく見えない。

どちらもえらく小柄だ。小柄な女か?それともドワーフかハーフリングとか?まさか、子供じゃねぇよな…。


二人は木の棒を持って、スライムと対峙している。

チュートリアルの定番、スライム討伐だ。

最初のスライムが天井から落ちてきた瞬間、片方がすぐに反応した。


「上だ!」


木の棒で正確に払いのける。

残りの一体も落ちてきたが、二人は慌てることなく対処している。


「ほう、落ち着いてんな」


新人にしては動きがいい。

特に前に居る片方は、スライムの動きを完璧に読んでいる。

跳ねるタイミングに合わせて横薙ぎ。無駄がない。

もう片方も負けていない。

剣筋がしっかりしている。しっかり鍛錬を積んでいる証拠だ。

ただ、力が足りないのか少し時間がかかっているようだが、普通の新人は不意打ちをくらってから泥仕合に入るのでそれに比べれば遥かにマシだ。


二体を倒した後、天井に張り付いてる二体のうちの一体に向かって後ろに居た片方が何かを始めた。


「おいおい…まさか…」


手のひらを相手に向ける。

そして——


小さな火球が放たれた。ファイアーボール。

初級魔法だが、これをチュートリアルで使える奴は剣士にはほぼ居ない。

火球は正確にスライムに命中し、一撃で倒した。


「うっそだろ!?チュートリアル時点で剣術も魔法も使えるのか」


しかも両方とも、結構な練度だ。

これは掘り出し物かもしれねぇ。

しかし更に驚いたのはもう一人だ。

天井に張り付いてるもう一体のスライムに対してジャンプして攻撃しやがった!


「おい!今何やった?届くような場所じゃねぇだろそこは!?」


身体強化か、特殊な祝福か、それとも別の方法か…新人で?

考えていると、次の瞬間、主神の目は別の映像に切り替わってしまった。


「ああ、もう終わりか」


まあ、チュートリアルなんて短いものだ。

でも、あの動き……ちょっと覗いてみるか。


俺は席を立った。

主伽藍を出て、小伽藍へ向かう。

オルデアル神の小伽藍はいくつかあるが、チュートリアルを終えたばかりなら、まだ近くにいるはずだ。

廊下を歩いていると、ちょうど小伽藍から二人組が出てきた。

フードを深く被った小柄な二人。間違いない、さっきの奴らだ。


「チュートリアルとはいえ、結構やるな。っていうかお前ら何歳だよ!?」


思わず声をかけてしまった。くそっ、興奮から荒い口調になっちまった。

二人はビクッと肩を震わせ、何も答えずに足早に去っていく。

映像では映らなかったフードで隠せていない口元、その歩き方、体格……


「まさか……嘘だろ……」


俺の背筋に冷たいものが走った。

あれは子供だ。それも、かなり幼い。

身長から推測するに、せいぜい6歳か7歳ぐらい。


「チュートリアルの史上最年少記録は8歳だぞ……」


通常、神の試練は15歳ぐらいから受けられると言われている。

それは13歳で成人して2~3年の修行を行って初めて、最低技量要件をクリアできるからだ。

体ができていないと力不足で要件クリアの難易度が跳ね上がる。


8歳で神の試練をクリアしたのは、2年前に話題になったノルデン伯爵家の令嬢、ルチア・ノルデンだ。

《万象の乙女》の異名で知られる天才少女で、強力な祝福と英才教育、肉体年齢に依存しない魔法使いであったからこそ若年でのチュートリアル開始が叶ったのだと噂されている。


だが、今日見た二人は、明らかにそれより若い。

そうだ。


「おいおい、とんでもないのが出てきたぞ」


俺は興奮を抑えきれなかった。

これは大発見だ。歴史的な瞬間を目撃したかもしれねぇ。

これだから神の目観戦はやめられねぇんだ。

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