第1話 祝福と消える子供

祝福の儀から一ヶ月たった。

あの日、神殿でみんなが「すごい!」って言ってた子たちは、もういない。


「ガレスくんはね、剣士の祝福をもらったから、貴族様のおうちに行ったのよ」


世話係のお姉さんが、やさしく教えてくれる。


「リナちゃんは商人の祝福で、大きなお店に行ったの。みんな幸せよ」


僕はうんって頷いた。でも内側のもう一人の僕が言う。


『ほんとかな? どうしてその子たちだけ? 僕たちはどうして残ってるの?』


朝ごはんの時間になった。僕はきれいなお洋服を着せてもらって、べつのお部屋でごはんを食べる。あったかいパンと、お野菜やお肉がいっぱいのスープ。おかわりもできる。

いっしょにごはん食べる子たちは、みんなきれいな顔の子ばかり。

お昼すぎ、大きい子のセラとお話をする。


「おなかすいた……」


セラがちっちゃい声で言った。


「え? お昼ごはん食べたよ?」


「うん、でもかたいパンひとつと、うすいスープだけだから……ミオルは何食べた?」


「パンとお野菜とお肉のスープ。おかわりもしたよ」


セラの顔が悲しそうになった。


「やっぱりちがうんだ……」


僕は世話係のお姉さんに聞いてみた。


「どうしてセラと僕のごはん、ちがうの?」


「え? なんのことかしら?」


お姉さん、こまった顔してる。目がきょろきょろしてる。


「ごはん。僕とセラのごはん、ちがうよ」


「あら、そんなことないわよ。おんなじよ」


内側のもう一人の僕が教えてくれる。うそついてる。お姉さん、うそついてる。

でも僕は、うんって頷いた。


「そうなんだ」


お昼のあと、ほかの子たちとお話した。

のこってる子は、みんな「これ何につかうの?」っていう祝福の子ばかり。

いい祝福の子たちは、もうだれもいない。

大きい子のマルクが言った。


「ぼくたち、13さいになったら、ここを出るんだって」


「13さい?」


「うん。それまでにもらってくれる人がいないと……」


マルク、なんか言いにくそうにだまっちゃった。


「ミオル、きみの祝福ってなに?」


ライアンが聞いてきた。ライアンは「せいとん」っていう祝福。


「きゃっかんし」


「なにそれ? なにができるの?」


「よくわかんない」


ほんとだよ。まだよくわかんない。


「ぼくのせいとんも、おかたづけがじょうずになるだけなんだよね。やくにたつかな」


ライアン、しんぱいそう。


「きっとやくにたつよ」


僕は言った。でも内側のもう一人の僕が教えてくれる。

ここにいるのは、やくにたたない祝福の子。そして顔がかわいいかで、ごはんがきまる。

僕は顔がかわいいから、いいごはん。セラやライアンは、そうじゃないから、ちょっとのごはん。

お部屋を出たら、ろうかでセラに会った。セラ、泣いてた。


「どうしたの?」


「アランくんがいなくなったの」


アランくん。僕とおんなじ外れ祝福だけど、すごくきれいな顔の子だった。


「どこいったの?」


「わかんない。朝おきたら、もういなかった」


セラは、なみだをふいた。


「お姉さんは『いい人にもらわれた』って言うけど……」


内側のもう一人の僕が言う。うそだよ、これ。

夜ごはんの時間。僕は院長先生を見てた。

院長先生、みんなを見てまわる。僕にはにこにこして、あたまなでなでしてくれる。でもセラやライアンを見る時は、なんか……つめたい目だった。


「あの子も明日で納品だな」


院長先生がぼそりと独り言を言った。ちっちゃい声だけど、僕にはきこえた。

だれのこと?

つぎの朝、エルサちゃんがいなくなってた。エルサちゃんも、いっしょにごはん食べてたきれいな顔の子だった。


「エルサちゃんは、すてきな家族にもらわれたのよ」


お姉さん、またおんなじこと言う。でも目が赤い。泣いてたんだ。

内側のもう一人の僕が、いろいろおしえてくれる。


いい祝福の子:すぐ「もらわれる」

だめな祝福で顔がきれいな子:いいごはんといいふく、ときどき「もらわれる」

だめな祝福で顔がきれいじゃない子:ちょっとのごはんとふるいふく、13さいで「でていく」


僕は、顔がきれいな外れ祝福の子。だから今はいいごはんだけど、いつか……。


「ミオル」


院長先生が言った。


「きみも、いつかすてきな家族にむかえてもらえるでしょうね」


院長先生、にこにこしてる。でも内側のもう一人の僕が言う。こわい笑顔だって。

その夜、ベッドでてんじょうを見ながら考えた。

いなくなった子たち、ほんとにしあわせになってるのかな?


『ちがうよ』


お月さまの光が窓から入ってきて、僕の顔をてらした。鏡で見た自分の顔を思い出す。ふわふわした茶色の髪に、緑色の目。院長先生が言うとおり、僕の顔はかわいいんだと思う。

だから、あぶないんだ。

僕はきめた。

ここから、にげよう。内側のもう一人の僕といっしょに。

そして、いなくなった子たちがどこに行ったのか、いつかわかるようになりたい。

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