普通じゃないって悪いこと?(創作)

「ごめん!今日も彼氏と帰るから一緒に帰れない!また明日ね!」

いつもの様に、はつらつとした笑顔で彼女は手を振る。

「…うん、また明日」

それに対して私は、手を振りながら離れていく彼女にそう言うのが精一杯だった。

ずっとずっと、幼稚園の時からの親友だった彼女、香菜にも高校にあがってすぐ彼氏ができた。

とうの私は彼氏どころか初恋すらまだで、好きってよくわかんない。

でも、香菜を取られたみたいでなんか嫌だ。

ずっと、ずっと小さい時からの親友が去っていく。

別に学校では仲良くしてくれるし、休みの日も遊んだりする。

ほんの少しだけ、ちょっとだけ一緒にいる時間が短くなっただけなのに。

「わかんない、わかんないよ…。好きな人と一緒にいたい気持ちなんて…」

頬を伝う大粒の涙を拭いながら私は思う。

私にとっては友達が一番なのに、みんなはどんどん恋人のもとに流れていく。

それが寂しくて、悔しくて…。

でも大切な友達には幸せになって欲しい。

矛盾を抱えて今日も私は前を向く。


そんな日々を過ごしてる間に、周りの友達はみんな恋人か好きな人がいるのが当たり前になっていた。

好きな人はいるのか、好きなタイプはどんななのか、聞かれても首を傾げる毎日が過ぎていく。

その度に"まだいい人に会えてないだけだよ!"

"そのうち好きな人ができるよ!"

そんなことを言われるのはもう飽きた。

好きな人が、恋人がいないのはそんなに変なことなの?悪いことなの?

私にはわからない。

"普通"じゃない私にはきっとわからない。

「ねぇお母さん、誰かを好きになるってなんなのかな。友達の好きとは違うの?」

ソファの上でクッションを胸に抱えながら訊ねる。

「そうねぇ」

お母さんは洗濯物を畳む手を止めると、私の横に腰掛ける。

「きっと陽茉莉ひまりはまだ精神年齢が幼いのね。そのうちわかる日が来るわよ」

その言葉と同時に伸ばされた手が、ふわりと優しく撫でられた頭が、やっぱり心地よい。

それでもどこか心に影が差す。

「そっか、そうだよね…」

胸に抱えるクッションがくしゃりと形を変えた。


その日の晩、私は考えた。

なんで、どうして私は誰かの一番になれないの?

どうして、どうして好きな人がいないとダメなの?

きっとそんなことを考えても答えは出ないし、答えはないのだ。

人の数だけ好きの種類はあるはずだから。

まったく同じ人なんていないんだから。

私は私らしく、君は君らしく生きていかなくてはならない。

だからさ、きっと香菜も私のもとに帰ってきてくれるよね…?

今日もぬいぐるみを抱きしめて眠りにつく。

私にとっての友達が親友として戻ってくるまで。

でも、いつ戻ってきてくれるの?

彼氏と別れろとは言わない、彼女がいたって構わない。

でも、私を蔑ろにはしないで欲しい。

今まで通りが良かったのに、それが叶わなくなるのは悲しいから。

そんなことを願うのは、悪いことですか?

あなたの好きな人に嫉妬するのはだめですか?

普通じゃないって、誰かを好きにならないっていうのは悪いことですか?







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今、君に知ってほしいことがある 柴ちゃん @sibachan1433

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ