ササゲモン
盆田米須
起
今から二十年以上前の話。
大学三年の夏休みの8月の終わり頃
昼前に同じ映画サークルのB夫からケイタイに電話があった。
映画サークルといっても、映画を自主制作するのではなく、一緒に映画館に観にいったり、DVDを観たり、感想を語り合ったりするだけの活動である。
「ファミレスに涼みに行かないか?」
男二人じゃなんだからってことで
同期の女子にも声をかけ、C美、D子、E代の三人が
「いいよ」
ってことでB夫が父親から譲ってもらったという白のスカイラインで、みんなを拾って昼過ぎ、ファミレスでランチやデザートをいただきながら、それぞれの近況や映画の感想など、うだうだとだべっていた。
まだ夏という事もあって、ホラー映画の話から怪談話に花が咲くとB夫が
「ここから、まあまあ近い所に、ウインク女が現れるという心霊スポットの〇〇ダムがあるんだけど、知ってる?」
ダムの名前は〇〇ダムと伏せさせていただきます。
「何だよ、ウインク女って?」
と私が聞くと
「A太、知らないのか? リングの貞子のような髪の長い、白いワンピースの女がウインクをしてくるそうなんだけどな、男たちは心を奪われて、ウインク女に手を引かれて、〇〇ダムの底に引きずり込まれるんだってさ」
「いやー、こわーい」
女子たちが怖がる様子を見て、ニヤニヤするB夫。
「女子は大丈夫だよ、ウインク女のターゲットは男だから。A太、ビビった?」
B夫がイタズラっぽく聞いてくる。
私は女子の手前、虚勢を張って
「いや、ビビってないよ、今からでも行くか?」
という事で〇〇ダムに行こうって事になった。
ほとんどが乗り気だったが、三人の女子の中では比較的おとなしめのE代は霊感が強く、霊が見えるということもあってか、行くのをためらっていたが、ついて来た。
ファミレスを出たのは午後1時半頃
B夫の運転で助手席には私、後部座席には女子三人
少しカビ臭いエアコンのクーラーを効かせたスカイラインで、ケニー・ロギンスのデンジャー・ゾーンから始まるトップガンのサントラを聴きながら、30分くらいでダムに到着した。
駐車場には私たちだけ。
クルマを降りてみると、緑の大自然に囲まれた、絵になるダムの美しい光景が、私たちの目の前に広がっていた。
土の遊歩道になっているダムの周りのハイキングコースを、ワシャワシャと鳴り響く蝉時雨を聴きながら、五人は反時計周りに進んだ。
私たち以外、ほかに人の姿は見当たらない。
それぞれケイタイのカメラでパシャリ、パシャリ、景色を撮ったりしていたが、B夫だけは車に乗せていたデジタル一眼レフのカメラを自慢気に首から下げて、
パシャパシャ撮りまくっている。
しばらく歩いていると公衆トイレがあって、B夫が何かの張り紙に気付いた。
[クマ出没 注意!]
「えー!この辺、クマが出るのかよ!」
「もう帰った方がいいんじゃないの?」
D子がそういうと、ガタイがいいB夫はドンと胸を叩いて
「オレが守ってやるって。クマはデッカイ声出せばビビッて逃げるから。ウォーッ!」
とブレードランナーのデッカードを追い回す、ロイ・バッティのような遠吠えをした。
「アンタ恥ずかしいことしないでよ!」
とC美に注意されたが
「誰も居ないからいいんだよ!」
と、どこ吹く風のB夫。
しばらく歩いていると、どこからともなく線香の匂いが漂ってきた。
「近くにお寺か、お墓でもあるのかな?」
と私が言うや否や、さっきまで聴こえていた蝉時雨がパタっと止み、あたりは静寂に包まれた。
「あっ、あそこ!」
E代はダムの中央辺りを指差して
「すっ、水面から、女の人が顔を出してこっちを見てる!」
と怯えた様子。
「どこどこ?ミラ・ジョヴォヴィッチみたいな、ベッピンさん?」
B夫は軽口を叩いて余裕を見せる。
ほかの女子二人は怖がりながら
「えっ!どこよ?!」
E代以外、誰も見えていない様子。
パシャリ!
B夫がダムの中央辺りの写真を撮って
画像を確認すると
「うわっ!!ウインク女だらけ!!ヤバイよここ、もう帰ろよ〜」
さっきまでの余裕のB夫とは打って変わって、マッドマックスのナイトライダーのように急に弱気になった。
「えっ!ホント?!」
私たちもB夫のデジカメの画像に目を凝らすと、水面から何十人もの女たちが、地獄の黙示録のウィラード大尉のように、ヌッと顔を出していた。
C美とD子は口に手を当て、目を見開き、わなわなと声にならない声を上げた。
よく見ると画像に写った女たちは、みな片目を瞑ってこっちを見ていた。
「うわっ!!ウインク女だよ!!」
私は思わず声を上げた。
「こっ、こっちに来るよ!!」
見えるE代は恐怖に追い打ちをかけてくる。
「キャー!!」
女子が悲鳴を上げ、全員パニック状態。
B夫は来た道をいち早く駆け戻り始め、私たちも一歩遅れてB夫の背中を追いかけていると、突然E代の前に、ワンダーウーマンの真実の投げ縄のような縄の輪っかがスルリと垂れてきて、それにE代の首が入った瞬間、逆バンジーのように宙に吊り上げられ、E代は首吊り状態になった。
「E代!」
C美とD子が声を上げた。
私は咄嗟にジャンプして、E代の足首を掴んで下に引きずり降し、C美とD子が急いでE代の首に掛かった縄を外した。
「E代!大丈夫?!」
E代は意識朦朧でフラついて歩けない。
「E代はオレがおぶる!」
帝国の逆襲で、壊れたC-3POを背負って逃げるチューバッカのように、私はE代をおぶって駐車場を目指した。
もうB夫の姿は先にはない
息を切らせ、やっとの思いで駐車場へ辿り着いた四人だったが
「アレ? ハァハァ」
「B夫が居ない、ハァハァ」
クルマはあるがB夫の姿が見当たらない。
クルマは奴のだし、奴がキーを持っているので中に入ることもできない。
「E代、ハァハァ、大丈夫か?ハァハァ」
「うん、ありがとう」
私はおぶっていたE代を下ろして、B夫のケイタイに電話しようとしていると、私たちが走ってきた方向から、B夫の声が聞こえてきた。
「おーい!…… 何でお前たちが先に……着いてんだよー?!」
「お前…… 四次元にでも行ってたのかよ…… 迷うような道でもないだろ……それより早く…… クルマに乗せろよ…… 」
私は息を切らしながらB夫をせかした。
B夫はフラフラになりながら、エンジンをかけてクルマを出した。
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