トリック・ツンデレ探偵の事件簿
小石原淳
か、勘違いしないで! トリックよ
か、勘違いしないで! トリックよ その1
私立美出学園には、変わった部活動がいくつもある。そして推理研も、もちろんその中の一つに数えられる。
物語に入る前に、無用の混乱を避けるため、学校名について説明しておく。
“美出”は人名由来で、創立者の
さて。
数ある変わった部の中でも推理研は特に変わっており、したがって部員数も多くはない。
美出学園では、生徒三人と顧問になってくれる先生さえ確保できれば、部として最低条件を満たす。では推理研も三人なのだろうと思うかもしれないが、今、実質的に動けるのは二人。僕、
三人目にして副部長の
うん? その通り。推理研の活動では、実際に事件解決に乗り出すこともある。尤も、こうして偉そうに講釈を垂れている僕は当初、推理研を推理小説研究会の略称だと誤解して入部のドアを叩いてしまったんだけど。
部長に、「ちょうどよかったわ。ワトソン役が不在だから記述者になりなさい」と言われ、渋々、正式入部することになった。横川部長が美人だというのも大きな要因であると、素直に認める。
横川部長がどのような顔立ちの女性なのか、その美しさを形容することはここではしない。筆力云々以前に、部長に禁じられているから。
名探偵を目指し、実績もそれなりに上げている部長は、己の姿形を詳しく描写されると、将来犯罪者らから特定され、狙われるかもしれないと考えているのだ、大真面目に。僕がこの記録を公表しなければ済むんだけど、名探偵の条件の一つに、有名でなければならないという項目を掲げる部長からすれば、事件簿の発表は欠かせないらしい。
とまあこんな具合に、怪我人が出ることはあっても死人は出ていないし、解決実績はそこそこ重ねてきているってことで、まずはうまく行っている部活だと思う。ただ、部長の癖が……。
今回はこの人が連絡係を押し付けられたのか。僕はそう思いながら、スーツ姿の刑事をちらと見やった。
「このような推理小説めいた事件には、あなたのような若い頭脳の方が向いているのではないかという推薦がありましたので」
実際、入部当初は僕も不思議だった。一介の学校の部活に、刑事事件の捜査協力依頼が来るなんてどういうこと?
これは創立者・出世美起がその人脈を活かして、警察OBや関係する政治家に飴と鞭による働きかけを行った成果と言われている。実態は知らない。怖くて知ろうとも思わない。とにかく、推理小説っぽい、本格ミステリっぽい事件が起きたらという条件付きで、協力依頼を出してもらえる運びとなった。そして幸か不幸か、横川部長の代になって、けったいな事件が頻発する。警察も意外と律儀なのか、それとも圧力故か、隠すことなく依頼を寄越してくれる。
結果、美出学園推理研は、今日もアクティブに活動しているのである。
「前置きはいいですから、どんな事件ですの」
気取った口調で部長が応じる。あ、ちなみに今いる場所は、美出学園の推理研部室だ。おそれ多くも、忙しいであろう刑事にご足労願っている。もう一つちなみに、相手は職務中だから&賄賂になりかねないからという理由を盾に、刑事にお茶を出すことは決してない。
「それが俗にいうところの~密室殺人~てなあれみたいでして」
密室殺人という言葉を口にしたくないのか、その箇所だけ小声になった茶谷刑事。
そんな嫌々ながらも職務をこなす相手に対し、横川部長は眉根を寄せた。
「密室ぅ? またですか! もう、密室密室密室。密室ばかりで飽き飽きしているというのに、またもや密室。世の中の犯罪者って、創造力を欠いた人ばかりになってしまったようで、悲しいことです」
……始まっちゃったよ。
多分、茶谷刑事も事前に聞かされているだろうし、ここは華麗なるスルーに徹しよう。
「まあ密室殺人がいくら多くても、トリックに工夫があればまだ許せます。ところが最近はハイテクなキーの抜け穴を突いたようなトリックか、そうでなければ大昔に逆戻りしたかのような針と糸のからくりで施錠するようなトリックばかりが目立つ有様。そりゃあね、推理小説の中のトリックじゃないんだから、先に使われているトリックを再利用しようがぱくろうが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます