第4話 冷遇される立場
アンナが我が家である公爵邸に帰ってきた。立派な門の前には門番が二人立っていた。アンナは門番に睨まれながら通り過ぎる。門番はぶっきらぼうな態度をとっているようであった。広々とした正面ホールを入ると長い廊下があり、アンナが歩いているとメイドたちはアンナを見ながら何かひそひそ囁き合っていた。
「あ、無能が帰ってきた」
「ほんとだ、でも少し早すぎない?」
「とうとう王子様に捨てられたんじゃないの?」
「あり得るわね」
「なんたって不遇職の『家事』なんだもんね、あははは」
見下すように冷笑を浮かべてアンナのことを軽んじている。この家の主人の娘にあたるアンナに、たかだか雇われの使用人風情がずいぶんと身のほどを弁えない態度をとっていた。メイドは外出から帰ってきた公爵家のお嬢様のアンナに、挨拶したりお辞儀をすることもなく鼻で笑っている。
これがアンナの日常。もう慣れたので、それほど気にしてはいない。成人の儀で神から家事という職業を与えられたことを知った公爵家の使用人たちはアンナに冷たい態度をとるようになる。レイチェルが成人の儀で聖女を与えられてからはアンナは一段と雑に扱われるようになった。
「ダニエル殿下から婚約を破棄されただって!?」
「社交界の笑いものだわ!」
「なんということだ……」
「もう終わりよ……」
アンナは自分の誕生日パーティーで起こったことを両親に話した。アンナは言い知れぬ苦しみで辛い思いに耐えるような顔をしていると、両親は驚きと失望を感じながら言った。父のジョセフと母のスザンナは娘のアンナのことを心配している様子はない。王家から婚約破棄されたことにより家名を貶めたという気持ちの方が強かった。
「お父様、お母様申し訳ございません」
「婚約解消の理由は、お前の職業が無能の家事だからだろう?」
「……はい」
アンナは責められてるような気がして両親に謝罪をした。ダニエルからの婚約破棄の理由を口にしようとしたところ、ジョセフは全て分かっているという感じでアンナの言葉を遮断するように言う。職業が家事なのが、一方的に婚約破棄を言い渡された原因であろうと間違いないと確信した視線を向けて言った。ジョセフの問いにアンナは悲しそうに顔を伏せて小さく返事をした。
「どうしてあなたは役立たずの家事なのよ! レイチェルは神に愛されて聖女の職業を与えられたというのに……姉として恥ずかしくないのですか!」
「お母様、本当にご迷惑をかけて申し訳ございません」
アンナは詫びたいと思う心境で顔が悲しげに曇っていると、スザンナは苛立って早口で娘を責めた。アンナのことを無能な娘と罵り、反対にレイチェルのことを才能に恵まれて神に認められた娘だと好意的な感情を見せた。アンナは母に怒られてもどうしようもない思いだった。
成人の儀で神に与えられる職業は神のさじ加減一つで決まってしまう。人間には逃れられない運命。どうして職業が家事かと批判されてもアンナからしたら理不尽なこと。アンナだって不遇職と言われる家事だけにはなりたくなかった。泣きたいのは自分の方だと心の中で思いながら、悔しさに耐えて謝罪の言葉を言うしかなかった。
「――お父様、お母様ただいま帰りました」
しばらくの間、誰も口をきかず部屋の中に重苦しい沈黙が流れていた。その時、ふいに背後から声をかけられた。声を発したのはレイチェルだった。レイチェルは誕生日会場からアンナが抜け出したことに気がついて、早々に解散を提案しアンナの後を追って来た。アンナとの婚約破棄を宣言してレイチェルと婚約宣言をしたダニエルと一緒に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます