第3話 妹は才能あふれた聖女
「改めて宣言する! 神に家事という無能の職業を与えられたアンナと婚約破棄して、神から聖女という貴重な職業を与えられたレイチェルと正式に婚約を結ぶ!」
ダニエルは胸を張って主張を公に唱える。アンナを捨ててレイチェルとの婚約を宣言した。ダニエルはレイチェルに、首ったけというほどの情熱を燃やして愛している。ダニエルが心変わりした決定的な理由は、アンナの成人の儀から二年後に行われた成人の儀で、レイチェルが神から聖女の職業を与えられたからに他ならない。ダニエルは聖女だと知ると、レイチェルのことを素晴らしいと褒めたて惜しみない愛情を注いでいた。
これほど他人の職業を批判するダニエルは、さぞ素晴らしい職業を神に与えられたのかと思うがそうではなかった。ダニエルは剣士という平凡な職業。剣士という職業は剣の使い手では下の階級で、上には剣客に剣豪に剣聖と上がっていく。実はダニエルは自分が職業で劣っていることを誰よりも気にしていた。アンナの職業は無能と言われる家事なのでダニエルも剣士という平凡な職業。なので職業が劣っている似たもの同士とダニエルは思って、以前から不快に感じてアンナのことを過剰に責めることを言った。
教会から公式に聖女と呼ばれるようになると、神に選ばれし存在だと世間でもてはやされてレイチェルは注目を集める女性になった。余計に姉妹は比べられるようになり、アンナは無能な家事と陰口を言われるようになる。逆にレイチェルは救世主として国の人々に崇められるようになった。国の守護者と言われて人気のレイチェルとは逆に、アンナのことを神に見捨てられた不幸者と言われひどい嫌がらせを受ける。また前世で神に仇なす忌むべき行為をしたなどと、根も葉もないことを言われて痛烈な批判を浴び続けていた。
「お二人はとてもよくお似合いですわ」
「レイチェル様の職業が聖女なんて、ダニエル王子の職業が剣士で聖女を守る騎士でロマンチックな物語のようね」
「無能な家事なんて捨てられて当然でしょう」
「レイチェル様が聖女では、ダニエル王子が惚れ込むのも当然よね」
「でもアンナ様かわいそう……うふふふ」
アンナの誕生日をお祝いに来た招待客たちが、ダニエルとレイチェルを祝福するようなことを次から次へと言い始めた。アンナが不遇職と言われる家事でも、今まで通りの友人だと言ってくれたアンナの親友たちも、裏切りのような言葉を口にして二人の婚約を祝っていた。
変わりない友情を信じて疑わなかった子たちは、手のひらを返すような意見を言ったり、同情的な顔で慰めの言葉を口にしてもいじわるな笑みを漏らしていた。アンナは自分が罠にはめられたことを悟った。
楽しみにしていた幸せの雰囲気だったアンナの誕生日が、残酷で悪意に満ちたものになった。アンナは周りの人間がみんな敵に見えて、絶望した顔でゆっくり床に崩れていく。十八歳の誕生日はアンナの人生において最悪の出来事となった。
アンナは、いたたまれない気持ちが湧きあがってきて、耐え切れずに自分の誕生日パーティーから逃げ出してしまった。何しろダニエルとレイチェルの婚約の祝福ムード一色に包まれていたから居場所がない。誕生日パーティーの主役だったアンナは寂しさと孤独を味わった。その悲しみは単純なものではなかった。
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